第2話「雨の日の家、俺だけ空気が違うんだけど?」
雨音がリビングにぽつぽつと響いていた。
休日にも関わらず特にすることのない俺は、ソファに座ってバラエティ番組を眺めていた。自堕落な時間を過ごしていると、リビングのドアが静かに開いた。
「兄さん、なに見てるんですか?」
義妹の瑠花だった。
白いパーカーにグレーのショートパンツ。ふわふわした靴下を履いている。家でのリラックスした格好。少し目のやり場に困る。
「特に面白くもないバラエティ。他にやることもないし」
「じゃあチャンネル変えませんか?」
瑠花がリモコンを手に取り、パチパチとチャンネルを変えていく。
画面には料理番組が映っていた。有名シェフが手際よく料理を作っている。
「これ見たいの?」
「はい。参考になるので」
瑠花は画面を見つめながら、興味深そうに呟く。
そのままぼんやりと料理番組を一緒に見ていると、雨音が少し強くなった。窓の外は灰色の空が広がっていて、いかにも梅雨らしい天気だった。
「こういう日って、なんだか眠くなりませんか?」
「確かにそうだな」
瑠花は軽くあくびをして、ソファの肘掛けに頭を預けた。
「兄さんは、雨の日好きですか?」
「好きではないけど、嫌いでもないな。家でゆっくりできるし。瑠花は?」
「私は好きですよ」
瑠花はそう言って、目を細めた。
「こうやって兄さんとのんびりできますし」
「そっか」
俺は瑠花の方を見た。リラックスした表情で、とても穏やかそうだ。
普段学校では俺に群がる女子たちに囲まれて疲れることが多いけれど、瑠花といると本当に気が楽だ。
「兄さん、学校はどうですか?」
「まあ、慣れたよ。てかごめんね。俺の妹だってバレて大変だろ」
「ちょっと声かけられることはありますけど、大丈夫ですよ」
瑠花は苦笑いを浮かべる。
「ほんとに?」
「はい。でも、兄さんについて聞かれることが多いですね。好きな食べ物とか、趣味とか」
「へえ、そんなこと聞かれるのか」
「はい。秘密にしてますけど」
「別に隠すことでもないだろ」
「だって、兄さんのことは私だけが知ってたいんです」
瑠花のその言葉に、俺は少しドキッとした。
「……なんで?」
「妹の特権ですから」
瑠花はポツリと呟いて、クスリと笑った。
料理番組が終わると、瑠花はリモコンを置いてあくびをした。
「眠くなってきました」
「雨の音って眠くなるよな」
「そうですね」
瑠花は膝を抱えるようにして丸くなった。その仕草がやけに可愛らしくて、俺はボーッと瑠花を見つめていた。
「兄さん?」
「あ、いや……なんでもない」
慌てて視線を逸らすと、瑠花が小さく笑った。
「私の顔、なにかついてますか?」
「ううん。ただ……」
「ただ?」
「なんか、可愛いなって思って」
その言葉に、瑠花の頬がほんのり赤くなった。
「か、可愛いって……」
「あ、いや、妹としてだよ」
俺も慌てて付け加える。瑠花は恥ずかしそうに俯いた。その時、ふわりと瑠花の髪の匂いが漂ってきた。シャンプーの香りに混じって、瑠花らしい優しい匂い。
「あ、そろそろ昼飯の準備しますね」
「おう、いつもありがと」
「いえいえ」
瑠花が立ち上がろうとした時、バランスを崩した。
「あ」
咄嗟に手を伸ばし、瑠花の右手首を掴む。
「大丈夫?」
「は、はい……っ」
瑠花の手首は思っていたより細くて、温かかった。お互いの距離が急に近くなって、瑠花の顔がすぐそこにある。
瑠花の瞳が少し潤んで見えた。
手を離すと、瑠花は頬を染めたまま小走りでキッチンに向かった。
瑠花がキッチンで作業を始める中、俺は自分の手のひらを見つめていた。まだ瑠花の体温が残っているような気がする。
なんだ、この感じは。
考えをまとめる間もなく、キッチンから瑠花の声が聞こえてきた。
「兄さん、今日は何が食べたいですか?」
「え? あ、なんでもいいよ」
「じゃあ、さっきの料理番組のパスタ、作ってみますね」
「ん、ありがと」
瑠花の普通の声を聞いて、俺は少しほっとした。でも同時に、さっきの瞬間が頭から離れない。
瑠花の手の温かさ、近くで見た瞳、頬の赤み。
全部が妙にドキドキして、俺は混乱していた。
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