「異世界は苦手」って言っていい?

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「異世界は苦手」って言っていい?

0.はじめに


『異世界ファンタジー、実はちょっと苦手…』


 そう言うと、意外そうな顔をされることがよくあります。

 なにしろ創作の世界では、異世界ジャンルが圧倒的な人気を誇っていますし、私自身もWEB小説を書いているからです。


 でも、苦手なのに読める異世界作品もあるんです。

 どこか惹かれてしまう。

 心が動く。

けれど、

 なぜそれだけは追い続けられるのか?


「異世界は苦手」と感じる自分の感覚と、それでも追い続けたくなる作品とのあいだにある『境界』について、私なりに言語化してみたいと思います。


    ◇


1. 現状


 私はこれまで、SFを軸にしたWEB小説を連載していました。

 構想も描写も、自分なりに手応えはありました。


 でも、PV数は約400ちょっと。

 4ヶ月で50話以上書いた結果としては、正直、自分の未熟さを痛感する数字でした。


 この数字を見て、ふと思いました。


「ジャンル選択、間違えたのかな?」


 もちろん、創作においてPVや評価がすべてではありません。

 私が創作を始めた理由も、そもそもは、

「自己妄想の言語化」

だったからです。


 でも、言語化した妄想が他人から見てどう映るのか、知りたくなるのも自然なこと。

 より多くの人に届いてこそ、反応や対話が生まれる。

 そのためには、やはりPVは必要と判断しました。


    ◇


2. 異世界ファンタジーの“圧”がすごい


 PVが伸び悩んだ理由を探るために、人気作品の傾向を調べてみました。

 ランキングやレビュー、書籍化作品などをざっと見て、気づいたこと──


「異世界ファンタジー、強すぎる」


 たとえば、「小説家になろう」の2025年5月時点・年間総合ランキング(ポイント順)はこんな感じです:


・『左遷錬金術師の辺境暮らし』/出雲大吉(193,664pt)

・『騎士爵家 三男の本懐』/龍槍 椀(183,578pt)

・『世界最強の極悪貴族は、謙虚堅実に努力する』/月島 秀一(163,022pt)

・『あなたのお城の小人さん』/美袋 和仁(152,062pt)


 どの作品にも、


『異世界転移・転生・貴族・魔法・冒険』


といった要素がしっかり入っています。

 つまり今のWEB小説市場では、


「読まれるもの=異世界ファンタジー」


という構造が、確立しているのです。


▶︎ 小説家になろう 年間ランキング(2025年)

https://yomou.syosetu.com/rank/list/type/yearly_total/


 カクヨムでも“異世界ファンタジー最強”は同じ


「なろう」と並んで人気の投稿サイト「カクヨム」でも、異世界ファンタジーの人気は圧倒的です。


○異世界ファンタジーの市場独占状態


・ ランキング上位の大部分を異世界ファンタジーが占める

・ 長編作品でも3分の1以上が異世界ファンタジー

・ 書籍化・アニメ化される作品も異世界ものが中心


○他ジャンルの厳しい現実


「SF・恋愛」「歴史・時代・伝奇」などは

・ 総合ランキング上位への食い込みが困難

・ 読者数の獲得に苦戦

・ 高評価を得る作品数も限定的


▶︎ 参考:カクヨム年間ランキング

https://kakuyomu.jp/rankings/all/yearly



○結論

 ここまで見せつけられると、やはり思ってしまいます。


「PVや評価を求めるなら、異世界ファンタジーを書くしかないのかもしれない」


 でも、やっぱり。


 私は異世界ファンタジーがちょっと苦手なんです。


“数字の現実”と“自分の感性”とのズレ。

 好みの問題と言ったらそこまでですが、このねじれや違和感は、いったい何なのか。


    ◇


3. 異世界ファンタジーに感じる「違和感」


「異世界ファンタジーが苦手」と言うと、聞かれます。


「どの作品が?」と。


……実は、人気作もそれなりに読んでいるんです。


『転生したらスライムだった件』

『Re:ゼロから始める異世界生活』

『オーバーロード』

『無職転生』


 どれも多くの人に愛されている、素晴らしい作品です。

 アニメ化もされ、大きな支持を得ています。


 でも私は、どれも途中で読むのをやめてしまいました。


これは明らかに「」です。

 作品が悪いわけではありません。

 私の読み方や、物語に求めているものが

 たぶん、違っているだけなのです。


○なぜ、読み続けられないのか?

 自分なりに分析してみると、いくつかのパターンが見えてきました。


📌 パターン1:設定の論理性への疑問


・ 異世界なのに、なぜか現代知識がそのまま通用する。

・「地球の常識」を持ち込んで無双する展開。


「文化も物理法則も違う世界で、本当にそれがそのまま通じるの?」


📌 パターン2:世界観の一貫性への違和感


・ 建物や言語は西洋風なのに、価値観や考え方は現代日本的。

・ 和洋折衷な文化や要素が、どうも腑に落ちない


「この世界の人々は、どんな歴史を歩んできたんだろう?」


背景にリアリティを感じられず、心が入り込みにくい。


📌 パターン3:転生・転移の“必然性”に引っかかる


・ なぜ「転生」や「転移」が必要だったのか?


「それを使わなくても、同じ物語が描けるのでは?」


 もちろん「読者の感情移入のため」という意図は理解できます。

 でも、物語内での必然性が弱いと、


「設定のための設定」


に見えてしまうのです。


    ◇


でも、「好きな異世界ファンタジー」もある


 異世界やファンタジーの世界で心から夢中になった作品もあります。


『ダークソウル』シリーズ(ゲーム)

『Fate』シリーズ(ゲーム・小説・アニメ)

『ベルセルク』(漫画)

『ダンジョン飯』(漫画・アニメ)


 これらは最後まで、いえ、何度でも繰り返し楽しんでいる作品です。


じゃあ、何が違うんでしょう?

 メディアの違い?(ゲームや漫画 vs 小説)

 それとも、もっと根本的な“何か”?


    ◇


4. 読める異世界と、読めない異世界の境界線


 改めて、これまでの体験を振り返ってみたところ、ある傾向が浮かび上がってきました。


【途中で読むのをやめてしまった作品】

• 『転生したらスライムだった件』

• 『Re:ゼロから始める異世界生活』

• 『オーバーロード』

• 『無職転生』


【最後まで、現在も追いかけている作品】

• 『ダークソウル』(ゲーム)

• 『Fate』シリーズ(ゲーム・小説・アニメ)

• 『ベルセルク』(漫画)

• 『ダンジョン飯』(漫画)



 最初は

「メディアの違い(小説 vs ゲーム・漫画)かな?」

とも思いました。


 ビジュアルがあると世界観が把握しやすく、読みやすいのではないかと。


 でも、私は転スラやリゼロのアニメも途中で挫折してしまった…


 つまり、メディアの違いではない。

 もっと根本的な「何か」がにある。


➖境界線1:「世界観の重さ」と「論理的一貫性」


 私が追いかけている作品には、共通する“世界観の重さ”と“論理的一貫性”があります。


○ダークソウル

• 文明が何度も滅びた歴史が前提にある

• 世界に満ちる呪いや絶望が、地続きのロジックで存在する

• 登場人物一人ひとりが、自らの過去や信念に基づいて行動している


○Fate

• 魔術体系に明確なルールがある

• 英霊の設定は歴史と神話を踏まえている

• 聖杯戦争という「死と欲望の競争」が世界を支配している


○ベルセルク

• 中世ヨーロッパを思わせる世界観に徹底したリアリティ

• 政治・宗教・戦争が物語に直接影響を与える

• ガッツの苦悩と絶望が世界の非情さと一致している


○ダンジョン飯

• 魔物の生態が現実の生物学に基づいている

• ダンジョン内部の環境設定が緻密で、自然な生態系が描かれる

• 食材調達と調理のプロセスが現実的で、ファンタジーの中に「納得できる現実」がある


私が求めているのは、


 「


だったんです。


 異世界であるにも関わらず、「なぜこうなっているのか?」が筋道立って説明されている。


➖境界線2:「ご都合主義」と「工夫・対話」


 もう一つの分かれ目は、物語の困難をどう乗り越えるかにあります。


○苦手な作品の傾向


・ 主人公がチート能力や特殊スキルで問題を打開

・ 物語上のピンチが、特別な力の発動で「解決されてしまう」


例:

• 転スラ → 新スキルを習得して一発解決

• リゼロ → 死に戻りで試行錯誤の末に最適解

• オーバーロード → 最初から強すぎて試練が試練に見えない



 一方、

○『ダンジョン飯』の対応

• 回復手段は料理(現地調達)

• 体力・知力・人間関係の限界の中でどう工夫するかが焦点

• 「料理×冒険」の掛け合わせが、試練を自然なものにしている


 つまり、私は、


「偶然得た力」ではなく「論理的な工夫と選択」に説得力を感じていたのだと思います。


➖境界線3:主人公の「苦悩の質」


 最後に、物語の中心にいる“主人公”自身に注目してみましょう。


○好きな作品の主人公像

• ダークソウル → 永遠に死と再生を繰り返す不死者

• Fate/士郎 → 理想を信じ、現実との狭間で苦悩し続ける

• ベルセルク/ガッツ → 絶望的な運命の中で戦い続ける

• ダンジョン飯/ライオスたち → 食糧難と生死の狭間で人間らしく悩む


 どの主人公も、「簡単に報われない現実」と向き合っています。

 しかも、その苦悩はその世界のルールの中で生まれています。


➕発見:「異世界ファンタジーが苦手」ではなかった


 ここまで考えて、はっきりしました。


「異世界ファンタジーそのもの」が苦手なわけではなかった。


 むしろ、


「異世界だから何でもあり」になってしまっている物語に、ついていけなかった


だけなのです。


 異世界でも、世界の内部にリアルがあれば夢中になれる。


 チートじゃなく、工夫で進む旅なら応援したくなる。


 安易な希望ではなく、報われない努力があるからこそ、物語に重みが宿る。


 それこそが、私が読み続けたい物語の在り方なのかもしれません。


5. なぜこの「境界線」が生まれるのか?


 ここまで、「どんな異世界ファンタジーが読めて、どんな作品が読めなかったか」を分析してきました。

 そして、その違いはジャンルではなく、「論理性」や「一貫性」にあると気づきました。


 では——

 なぜ、「境界線」を持つ読者が生まれるのでしょうか?


🏳️「即効性」志向の時代背景


 現代は、答えがすぐに得られる時代です。


・SNSでは1分で「バズるネタ」が消費される

・「努力=成功」というテンプレートが好まれる

・「難解」「複雑」「余白」


は、避けられる傾向がある。

 だからこそ、


・「強くてニューゲーム」

・「分かりやすいスキル」

・「必ず報われる努力」


といった物語構造が支持されるのは、ある意味で自然なことかもしれません。


 一方で私は、そうした“即効性”よりも、複雑さや余白に惹かれてしまう。


• なぜこの世界はこうなったのか?

• どうしてこの魔物はこんな生態を持つのか?

• このキャラの台詞の裏にある苦悩とは?


 そんな「答えの出ない問い」を考えることに、むしろ魅力を感じてしまう。


 たぶん私は「解決よりも、問いを楽しむタイプの読者」なのだと思います。


🏳️読者層の「深さ」への嗜好差


 異世界ファンタジーが好きな人にも、実は読者のタイプがあるように思います。


異世界・ファンタジー作品の読書体験分類


📘 考察重視型

特徴:推理の楽しさ | 断片的情報から全体像を構築


作品例

- Fate/stay night シリーズ

- DARK SOULS シリーズ

- ひぐらしのなく頃に

- まどか☆マギカ

- 進撃の巨人

- うみねこのなく頃に

- Serial Experiments Lain


読書体験の特徴

- アイテム説明や何気ない台詞に重要な手がかり

- コミュニティでの考察・議論が活発

- 複数回の読み返しで新たな発見

- 隠された真実を推理する楽しみ


---


🌟 没入重視型

**特徴:壮大な体験 | 複雑な世界観への感情的没入**


作品例

- ベルセルク

- ロード・オブ・ザ・リング

- エルデンリング

- メイドインアビス

- 十二国記

- 蟲師

- ウィッチャー

- 彼方のアストラ


読書体験の特徴

- 世界観の細部まで作り込まれた設定

- キャラクターの心情に深く共感

- 物語世界に「住んでいる」ような感覚

- 圧倒的な画力や描写による感動


---


🔍 設定重視型

**特徴:安心の論理性 | 明示された設定の一貫性**


作品例

- ダンジョン飯

- Dr.STONE

- ログ・ホライズン

- オーバーロード

- 転生したらスライムだった件

- 本好きの下克上

- 異世界食堂

- 賢者の孫


読書体験の特徴

- 設定の矛盾点や論理性を検証

- システムや法則の理解が楽しさの源泉

- 「もしも」の状況設定への納得感

- 明確なルールに基づく展開


---


🎮 体験重視型

**特徴:感動の分かりやすさ | 親しみやすい感情の流れ**


作品例

- 鬼滅の刃

- この素晴らしい世界に祝福を!

- Re:ゼロから始める異世界生活

- ソードアート・オンライン

- 無職転生

- 盾の勇者の成り上がり

- 慎重勇者

- 魔王学院の不適合者


読書体験の特徴

- 感情移入しやすいキャラクター

- 分かりやすい成長・成功体験

- ストレス発散や癒しとしての機能

- アクセスしやすい満足感


---


🎯 分類の基準


分析軸1:物語の複雑さ

- 多層的・複雑:複数の解釈が可能、隠された要素が多い

- 分かりやすい・直接的:一義的、明確な説明がある


分析軸2:読者の参加スタイル

- 分析的参加:論理的思考、考察、システム理解

- 体験的参加:感情移入、没入感、追体験


各タイプの価値

すべてのタイプが等しく価値のある読書体験を提供:

- 考察重視型→ 知的好奇心と推理の楽しさ

- 没入重視型→ 深い感動と世界観への没入

- 設定重視型→ 論理的納得感と安心できる一貫性

- 体験重視型→ 親しみやすさと感情的な満足感



 私はたぶん、考察重視型の読者。

 物語を「消費」するのではなく、「読解」したい。

 断片的な情報から全体像を推理したり、物語の裏にある構造や意図を掘り下げたりすることに喜びを感じる。


 とはいえ、自分の嗜好が完全に一方向に棲み分けされているわけではない。

 図のとおり、没入重視型や設定重視型の作品にも強い魅力を感じてきた。

 複雑で多層的な世界に浸ることや、論理的に筋の通った設定を読み解くことも、私の読書体験の一部を構成している。


 一方で、対角に位置する体験重視型の読み方には、どうしても距離を感じる。

 その感情は、しばしば「異世界ファンタジーが苦手」という言葉で簡略化されてきたが、

 実際には「物語への参加の仕方」において、自分がそこに入り込みづらかった、というだけのことかもしれない。


 この図解が示すように、私は「異世界が苦手」なのではない。


 私は、「体験型読者として異世界に入っていくのが下手」だった。


6.記事全体のまとめ


 本記事では、「異世界ファンタジーに感じる違和感」の正体を、自分自身の読書傾向から読み解いてみました。

 ここで改めて、ポイントを箇条書きでまとめます。


• 「異世界ファンタジーが苦手」ではなく、「読める/読めない異世界」がある

• 読める作品には一貫した傾向があり、それは物語の構造や読者の参加度と関係している

• その傾向を可視化するために、読者層を4タイプに分類した(考察重視/没入重視/設定重視/体験重視)

• 自分は「考察重視型」に近く、複雑で断片的な物語を読解することに魅力を感じる

• 一方で「体験重視型」の作品とは、読解スタイルの相性が悪かった

• 読みにくさや違和感は、作品側の問題というよりも、読者と作品のスタンスのズレとして説明できる


 このように「読めない異世界」は、読解スタイルの不一致から生じていたのではないか。

 そこに気づけたことで、無自覚な拒否感から少し自由になれた気がします。


7.あとがき


○なぜこの記事を書いたのか


「異世界モノが苦手」と思ったとき、最初はその気持ち自体がどこか恥ずかしくもありました。

 流行の波に乗れないこと、周囲と話が合わないことに戸惑いがあったからです。


 でも、ただ「合わない」と済ませるのではなく、なぜそう感じたのかを丁寧に言葉にしてみたいと思いました。

 自分の読書スタイルを見つめ直すことで、作品に対してもより公平な目を持てるのではないかと。



○批判ではなく、「地図」を描きたかった


 この記事は、何かを否定したり、作品の優劣を論じるために書いたものではありません。


 むしろ、ジャンルの多様さを前提としたうえで、「どんな読者に、どんな物語が合うのか」を探る、スタンスの地図のようなものを描きたかったのです。


読む側のスタンスもまた、作品の一部です。

 だからこそ、「読めない」という体験も、決してネガティブなものではなく、より良い出会いへの道しるべになると信じています。


 皆さんはどのタイプの読み手でしょうか?

好きな作品を通して、自分だけの「読解スタイル」を見つけてみてください。


 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 この記事が、あなたと物語の新しい出会いの一助になれば幸いです。


 次回は、この読者タイプのうち「考察重視型」の創作的可能性について、もう少し踏み込んで書いてみたいと思います。


🔗 ご興味のある方へ

 自作のSF作品も公開しています。

「読解型」の読者に刺さるような世界観と構造を意識して書いています。


▶︎ 『noncoding luminescence:eternal white』

https://kakuyomu.jp/works/16818093091391627617

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