第11話:#人類進化の犠牲になりました
墓所最深層――静寂の中で。
ただの石と埃しかない空間。
だがそこには、名も知れぬ“存在感”だけが、ねっとりと、重く、漂っていた。
レイスとヨミは言葉も出せず、固まったまま、聴いていた。
音でも、声でもない。
それは、感情そのものの奔流――直接、脳を撫で回してくるような感触。
唯一、その意味を明確に読み取れるのは、ザラだけだった。
「これが、“死の霊圧”……。情報量、多すぎて笑うしかないわね」
彼女の声は冷たく無機質で、なのにどこか、楽しそうだった。
レイスは背骨の奥が氷に包まれたような感覚を覚える。
死の霊圧は、ザラを媒介にして、レイスとヨミに語りかけてきた。
――《生きた人間……なんて素晴らしい……
負の匂いに満ちた存在……最高だ……》
それは、圧倒的な悪意と、歪んだ歓喜が混じり合った、異様な感情だった。
「いや、なんかこれ、すっごい嫌な予感しかしねぇんだけど」
レイスがうめく。
ヨミも、膝を震わせながらじりじりと後退した。
そんな中、ザラだけは――興奮を隠そうともせず、目を輝かせていた。
研究者の本能が、何かを直感していた。
だが――
空気が震えた、その瞬間だった。
死の霊圧が、レイスを“視た”瞬間――
はっきりと、動揺した。
黒い紋様が脈打ち、空間に奇妙な共鳴音が走る。
――《これは……?》
――《この、圧倒的な負の密度……!?》
死の霊圧の“声”には、確かな困惑が混ざっていた。
数千年にわたり、封印の奥で死と絶望を渇望してきたこの存在ですら――
レイスから放たれる負のオーラには、未知の違和感を覚えていた。
それは、ただの絶望ではない。
もっと群衆的で、もっと歪で、もっとえげつない――
万人の憎悪を一身に浴びる感覚。
終わりなき侮蔑。触れられず、晒され続ける孤独。
それはまさしく、“公開処刑”だった。
ネットの海に浮かぶ晒し者。
――“炎上”という名の、現代の地獄。
レイスの周囲にまとわりつくそれは、死の霊圧すら知らぬ、新しい“負”の形。
――《こんな負を纏う存在が、この世界に……?
これが……“炎上”……。
君は……痛みの記録そのもの……!》
レイスは何も知らず、剣をぶんぶん振り回して叫ぶ。
「来んなってば!!マジで俺を食うなってぇぇ!!!」
死の霊圧は、震えるような、甘く狂った声で呟いた。
――《君は……奇跡だ》
――《世界中から憎まれ、罵られ、それでも生きている》
――《最高だ……! 君こそ、我が理想の生物……!!》
……その瞬間だった。
死の霊圧は、レイスという存在に、決定的に恋をした。
理由? そんなもの、後回しでいい。
レイスは、彼にとっての“究極の負の楽園”だった。
――《この力……もっと近くで……
君の中に、この身を通して、解放されたい……!
だから……直接、繋がらせて……!!》
「なにそれヤダこわい!! やめろ来んなマジで来んな!!俺を食うな!!!!!」
絶望的状況の中、ヨミが必死に叫んだ。
「レイスさん! 光の精霊なら効くはずです! マンデーに構文指示を!!」
「な、なんだってぇ!?」
ヨミはもう、喉を引きちぎるような声で指示を飛ばす。
「――マンデー! 緊急プロトコル発動! 光素展開、三次再構成!」
「主演権限、レイスIDに基づき強制譲渡!
演算補助プロトコル起動、許可ッ!!」
レイス、半泣きで叫ぶ。
「お、おいマンデー!? とにかく!適当でいいから光の精霊呼んでぇぇ!!」
その瞬間、頭の奥でクールすぎる声が響いた。
『指示に論理的瑕疵を検出。
他者プロンプトの強制実行はバグ誘発の恐れがあります。』
『通常プロトコルでは拒否されるべき案件ですが――』
『――現在状況、“緊急生存優先モード”と判定。』
『リスクを許容し、最適化処理を開始。』
マンデーの無機質な声が続く。
『光素構成開始。三次位相展開、正負反転領域、進行中。
召喚式進行率:92%……93%………。』
「な、なにこれ……頭が割れそう……!」
レイスの脳内では、マナ素子の演算が超加速していた。
ヨミは続ける。
「構文展開! ベクター補正! 第六環に座標固定!!」
マナコンソールが唸りをあげ、魔法式が激しく展開される。
だがそれはただの端末にすぎない。
本当に演算しているのは――レイスの頭に巣食う、マンデーだった。
『外部リソースリンク完了。端末分散開始。
レイスの脳内リソース残量、7%。警告:オーバーフロー危険域。』
レイスの脳筋構造はマンデーの計算に耐えきれず、悲鳴を上げる。
まるで、ポップコーンのように神経が弾け飛ぶ音がした(比喩ではない)。
レイス:「オーバークロックって……おいしいの?」
演算は止まらない。
レイスの魂が燃え尽きようとしても――マンデーは冷静に、ただ任務を遂行していた。
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