第2話 お笑い芸人

「どうも~!右脳うのうこと、宇野君です!」

左脳さのうこと、佐野君です。」

「2人あわせて脳民のうみんです!よろしくお願いいたします!」

「いやあ~!私はね!名前の通り右脳が発達はったつしておりますものでね!五感ごかん人並ひとなみ外れております!」

「なるほど、五感が!」

「そうです!五感が良すぎて悪寒おかんがして振り向くとおかんがいた!ぎょえっ!」

「だじゃれかっ!」

「ノンノンノン!駄洒落だじゃれじゃないよ、ラップだよ!」

「かえるじゃないよあひるだよ!みたいに言うな!」

「佐野君!」

「なんだよ!」

「君には、足りていない五感が!もっとパッションを受け入れろ!パッショナブルに生きろ!パッショナブルに!」

「パッショナブルってなんだよ」

「こうして空をあおぎ」

「空を仰ぎ?」

「目をつぶり」

「目をつぶり?」

「心を開放するのだ!」

「ハイハイ、心を開放ね、」

「そして!後ろ向きになり」

「後ろ向きになり?」

「地面に手をついて」

「地面に手をついて?」

「おケツを出し、ぶりぶりぃ~ぶりぶりぃ~!」

「クレヨンよんちゃんかっ!」


「ハイ、ストップ!」


トビオがさえぎった。理由はわかっている。


「だから!おケツ出さなきゃダメじゃないか!」


「いや・・・だから、何度も言っているけど、なんで僕がおケツを出さなきゃいけないんだよ。」


「だって俺がおケツ出したっておもしろくないだろ?コージが出した方が100倍面白い。」


「そんなこと言って自分が出したくないだけだろ!」


「はあ?何言っちゃってんの?俺はいくらでもおケツ出せるぞ」


 そう言うとトビオは、ためらいなくおケツを出し、クレヨンよんちゃんがごとく、ブリブリィ~っとカニ歩きをした。そうだった、こうゆう奴だった。ここは人気ひとけのない丘の上にある駐車場ちゅうしゃじょうだから、まだいいけど、露出狂ろしゅつきょうがいるって警察けいさつ通報つうほうされたらどうするんだ。


「やめろ!もういい!しまえよ、早く!」


「そう?」


「残念そうに、しまうな!」


「あのな、僕は、おケツを出して笑いを取るより、もっと知的ちてき頭脳ずのうプレーで人を笑わせたいんだよ。」


僕がそう言うと、トビオははなで笑って言った。


「何が知的な頭脳プレーだ!そんなんで大笑いが取れると思っているのか?そんなものでとれる笑いは「ふふふ」とか「クスクス」止まりだ!お前は、お笑い芸人として中途半端ちゅうとはんぱなのだ!恥ずかしがってる芸人は、一番ずかしいぞ!」


「別に恥ずかしがっているわけじゃない!おケツを出さなきゃ笑いが取れないなんてナンセンスだ!」


「ノンノンノン!わかっていないねえ~コージくんは、、大事なのは、笑いのためなら、おケツさえも出せる覚悟かくごがあるかどうかだ。お笑い芸人としてのプライドの問題なのだよ?」


「何がプライドだ!おケツなんか出さなくても、いかにして笑いを取れるか!それが僕のプライドだ!」


お笑いに対する考え方が、どうもトビオとは食い違う。特にこのケツ問題について僕たちは、何度も議論ぎろんを重ねていた。


「もう稽古けいこはやめよう、帰るよ」


 僕は、そう言うと坂道を、下り始めた。最近さいきんいつもこうだ。


 僕とトビオは、お笑いコンビ歴2年目の芸人だ。この1年間ひたすらネタ作りと稽古に励んできた。時々、地方の特設とくせつステージなどでライブは行ったが、お笑い番組に出たことは一度もなかった。これからテレビ進出しんしゅつに向けて頑張がんばろうと思っていたら、世の中はいつの間にか、ネット中心になっていて、僕たちの夢はちゅうぶらりんのまま行き先を失っていた。

 僕たちは、稽古しすぎて、浦島太郎並みに世間にうとかった。そんな状況もあってか、最近は、稽古しようと集合しても、ケンカ別れになる事が多かった。


「おい!ちょっと待てよ、今日はちがうんだ。目的がある・・」


 トビオがわけわからないことを言いながら、あわてて追いかけてくるのが見えた。


 それを無視むしして、僕が早足で坂道を下っていると、前から2人の男が、すごい形相ぎょうそうで坂道を上ってくる。2人はまるで競争きょうそうしているかのように横並よこならびで歩いていて、片方かたほうが追いすと、今度はもう片方が追い越し、無言むごんの競争をしながら、僕のわきを通りぎた。サラリーマンなのか、2人ともスーツを着ていたが、汗だくでヨレヨレになっている。


 僕は、なんだか気になり、振り向いて、しばらく様子を見ていたが、やがて坂の頂上付近ちょうじょうふきんにある屋敷やしきの前で1人の男が中に入っていったようだ。残った、もう1人の男は、しばらく門に手をついて呼吸こきゅうととのえている。


その男にトビオが何やら話しかけていた。


「何やってんだ?あいつ・・・全く!」


僕は仕方が無いので、また下った坂道を上り始めた。


全くトビオは世話せわける。なんでだれでも彼でも話しかけるんだ?それでいつも迷惑するのは僕なんだ。


坂を上りながら、少しずつ鮮明せんめいに見えてくるトビオの顔をにらんでやった。


「オ!戻ってきたか、君はすぐ僕に会いたくなっちゃうんだねえ~」


僕が頂上にたどり着くと、トビオが呑気のんきに話しかけてきた。


「あほか、お前が人に迷惑をかける前に、止めに来ただけだ。」


僕がそう言うと、トビオはサラリーマンの男に向かって


「あ、こいつ、オレの相方あいかたのコージ君です。」


と、勝手に僕の名前を漏洩ろうえいした。


 男は気まずそうに会釈えしゃくをした。20代だろうか・・?スポーツをしているのか、日にけて、がたいがよく、ワイシャツは筋肉きんにくのせいでパツパツしている。男は、初対面の変な2人組に声をかけられて、あきらかに戸惑とまどっているようだった。


「じゃ、僕はこれで」


そそくさときびすをかえした男に向かってトビオが


「入らないんですか?」


と呼び止めた。


「何言ってんだよ、トビオ。迷惑かけて本当にすみません。」


僕はサラリーマンの方に頭を下げた。


いつでも他人に興味きょうみ津々しんしんなのはいいが、もちっと距離感きょりかんとか、あるだろ?ふつー。変化球とか?ふんわり投げるとか?

直球しか投げないトビオくんに僕はいつもドギマギしてしまう。


「入らないんですか?屋敷に。」


そんな僕の気も知らないで、トビオはさらに男に話しかける。


「だから入るって、、?私が何で・・」


男はそう言いながら、訳が分からないというようにトビオを見ている。


「あ、知らないのか・・。」


トビオは男の様子を見て、うなずきながら、ひとりで納得なっとくしている。


「トビオ、何なんだ一体?失礼だぞ、あの、気にしないでいいので、本当にすみません。」


なんで僕が謝っているんだ?本当にもう。


「ああ、ごめんごめん、コージにも説明しなきゃいけないんだ。この屋敷のこと。」


「屋敷?」


「そう!この屋敷の変なうわさについて。ひょーひょひょひょ。」


「変な噂?」


「そう!ひそかにささやかれている不気味ぶきみな話が、この屋敷にはあるのさ!それを調査ちょうさして撮影さつえいするよう仕事の依頼を受けたのだ!」


「仕事?聞いてないぞ、そんな話。」


「いきなりびっくりした方が楽しいだろ?サプラーイズ!」


「何がサプライズだよ、この屋敷が何だっていうんだよ。」


僕が聞くと、トビオは勿体もったいぶって言った。


「俺もよく知らないが、、この屋敷へ行くと、誰もがゾンビになってしまう、ゾンビ伝説があるのだ!」


トビオの謎の含み笑いを見ながら、


「・・・はあ?」


僕とサラリーマンは返答がハモってしまった。

タイミングよく、カラスが鳴いていた。

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