第10話 王命は絶対

 待ってほしい、今シオミセイラは私と共に行動できなければ聖女としての役割を果たさないと言った……?

 ……そうしたら私はどうなる?

 シオミセイラに付き従う形で活動しなければならない?


 ……リカ様の時と同じと言えばそうかもしれないけれど、彼女には聖女としての役割を果たす責任というものが芽生えていない。


 ──原因はわかっている。


 彼女はこの世界に対する愛着を形成できていない。

 あまりにも短すぎるこの儀式の感覚でこの世界の事を王宮の中しか知らないからだ。


 せめて誰かが外に連れ出して景色の1つや2つ、王宮とは異なる食事を食べさせていれば何かが変わっていたのかもしれないけれど……、もうどうしようもない。


「ならばそうしよう! マリーヴィア=フォン=アストヴァルテ! 貴殿はこの新たなる聖女、セイラ=シオミと共に行動せよ!」

「……はい、かしこまりました」


 ……これは、今後の将来設計の練り直しね。

 困った事になったわ……。


「そして、セイラ=シオミに王命だ! 貴殿は巡礼の旅に出よ! 場所は追って伝える!」

「え〜!? ジュンレーの、旅ィ!? あたし、いきなり外放り出されるの!?」

「セイラ=シオミよ、独りではない! 貴殿には聖女の騎士を始めとして、マリーヴィア=フォン=アストヴァルテ、それに婚約者である我が息子オズワルド=レコストル=ヘンデルヴァニアがいるではないか!」

「ほとんど男じゃないですか! せめて他に女の子はいないんですか!」


 ……気にするのはそこなのだろうか?


「ならぬ! 強靭な魔物と戦える保証がない!」

「え!? 魔物出てくるんですか!? あたし戦えませんよ!!!」

「そのための聖女の騎士だ。セイラ=シオミよ! 貴殿には聖女の騎士並びに我が息子オズワルド=レコストル=ヘンデルヴァニアを補助してもらう! 貴殿の身は彼等が必ず護る! 安心せよ!」

「うっ、ぐぐぐ…………」


 国王陛下がここまで言えば何も言い返せないのかシオミセイラは悔しそうに押し黙る。

 ……女性に護られたいとは思っていないのね。


「まずは居住地となる聖女の塔へ行ってもらおう! 聖女の筆頭騎士へイヴル=フレイ=ファロンディア! セイラ=シオミを聖女の塔へ!」

「はっ!」

「え〜、あたし、マリーヴィア先輩に案内されたいです!」

「ならぬ! へイヴル=フレイ=ファロンディアよ! セイラ=シオミを連れよ!」

「はっ! ……失礼します、聖女様」

「押さないで〜!! なんで塔に幽閉されるの〜!?」


 ……幽閉される訳ではないのだけれど。


 シオミセイラはヘイヴルに連れられて、この場を去った。


 私達は残されている訳だけれど……。


「あ、あの〜、陛下。わたくしムウ=エデントールは聖女様と共に行動はできないのでしょうか?」

「貴様に戦闘能力などないだろう。できないに決まっている」

「……そうですか」


 ムウ=エデントールは肩を落として壇上から降りた。

 ……聖女の研究にかまけ過ぎて魔術の修行を怠っていたのかしら?


「ついでに言おう! 我が息子オズワルド=レコストル=ヘンデルヴァニア! 今日から聖女の塔に住んでもらう!」

「……承知しました、父上」


 ……そうなると私は聖女の塔に残留、になるのかしら?

 空き部屋はあるけれど、掃除をしていないわね。


「残りの聖女の騎士とマリーヴィア=フォン=アストヴァルテはオズワルドと共に聖女の塔へ帰還せよ!」

「はっ!」

「承知しました」


 もう私の聖女の騎士ではなくなったため、私が彼らの前を歩くのはおかしいことだ。

 動こうとしない聖女の騎士達を目で促し、私達は聖女の塔へ戻ることになった。









 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









 聖女の塔に戻ると、ヘイヴルとシオミセイラが立ち止まっていた。

 シオミセイラはどこか固まっているようだけれど……。

 私達が近づくとシオミセイラが振り返った。


「マ、マリーヴィア先輩、あたしってこの塔に住むんですか?」

「はい、最上階に住むことになります」

「さ、ささ、最上階!? エ、エレベーターってあります?」

「エレベーター……。そのようなものはございません。階段で移動します」

「貧弱なあたしには厳しいですよ! どうして下の階に住まないんですか!?」

「身分の高い者は高い場所に住むというのがここでの習わしですので……」


 この世界では地震というものがないので基本的に身分の高い者は高い場所に住むことになっている。

 聖女の塔、すっかり見慣れているけれど白いレンガで造られた丸い塔だから、下の階に住みたがるのはわかるかもしれない。


「……そうだ! マリーヴィア先輩! 一緒の部屋に住みましょうよ! それなら……」

「聖女様、同性とはいえ同じ部屋で過ごすことは良くないですよ」

「私は聖女様が住まう部屋のすぐ下の階の部屋に入らせていただきます」

「じゃあ、近いってことですか!? それならあたし、最上階で暮らします!」


 これでなんとか1人で過ごせる場所は確保できたわね。

 シオミセイラも無事に最上階の聖女の部屋に住む事が決まったわけだけれど、あの殺風景な部屋、受け入れてくれるかしら?


「まずは聖女様、聖女の塔に入ってみましょう。聖女様の部屋までの場所に様々なものがございますのでお見せします」

「はぁい」


 この場はヘイヴルが取り仕切ることになりそうね。

 ……もう私が何かを取り仕切ることはないだろうけれど、しばらくは彼らを見守りましょうか。

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