第6話 聖花の庭
聖花の庭、この場所は歴代の聖女が育ててきた花々や樹木が育つ場所だ。
ここで見るような花や樹木は王宮の外では見られない。
けれど、日本ではよくある花々や樹木が存在する。
桜に梅、菊に薔薇、百合……、くらいしか私にはわからないけれど、間違いなく王宮の外では見られない、地球にあるような植物が存在しているのだ。
「さて、マリーヴィア。聖女の塔に聖女以外の女性は出入りできない理由を聞きたいかい?」
「はい、聞かせてください」
聖女の塔に私以外の女性が住んでいない、どころか出入りができない理由は一体どうしてかしら?
皆目見当もつかないのよね。
「そうだね……」
「マリーヴィア? そこにいるのか?」
「オズワルド殿下?」
重圧感を感じさせる低音が聖花の庭に響く。
この声はオズワルド殿下の声のはず。
……聖花の庭に立ち寄る者はあまりいない。
王宮は王宮で見事な庭を保有しているため、そちらで花を愛でる者が多いのだが……。
オズワルド殿下は聖花の庭の花の方を好んでいるのか、よくこちらで休んでいる事の方が多い。
「俺のことはオズと呼んでくれと、……いたのか。聖女の騎士」
「僕がマリーヴィア様を1人にしないということは第一王子殿下も御存知のことだと思われますが……」
「なら退け。マリーヴィアと2人で話がしたい」
「立場上、マリーヴィア様から離れるわけにはいきません。それに、第一王子殿下は直にマリーヴィア様との婚約関係は解消されるはずです。2人きりになどさせません」
……オズワルド殿下とヘイヴルは相性が悪いのか私がいる状態で顔を合わせるといつも口喧嘩をしている。
現に、オズワルド殿下は眉間の皺が深くなっており、ヘイヴルの顔はどこか引きつっている。
怒鳴り合いにまでは発展しないから良いけれど、このままにしておくべきかしら?
「聖女の騎士も直にマリーヴィアから昨日召喚された聖女の下に属するのは決定事項だ。貴様とて同じような立場ではないか」
「ですがまだ我々はマリーヴィア様に付き従う身。それよりも殿下は解消される婚約解消に何を求めているのでしょうか?」
「……言ってくれるな。最後になるかもしれない話だ。そのくらいはさせろ」
「でしたら僕も同席しても構わないでしょう? なにかやましいことでもございますか? そのようなものでしたら」
「そのようなものはない!」
「でしたら僕も同席させていただきましょうか」
「……許そう」
口喧嘩の勝敗はヘイヴルに軍配が上がった。
……オズワルド殿下が私にしたい話というのは一体どういったものかしら?
普通に考えたら別れの言葉になりそうよね。
私とオズワルド殿下の婚約関係は直に解消されてオズワルド殿下はシオミセイラと婚約関係を結ぶもの。
「ではガゼボへ参りましょうか。立ち話もなんですし、ね?」
「そうしましょうか。オズワルド殿下はそれでよろしいでしょうか?」
「あぁ、それで構わん」
私達は白薔薇のガゼボへ向かうことになった。
とは言っても距離はそこまで短くはない。
聖花の庭は聖女1人でも管理できるような広さというのもあり、王宮にある庭としては狭いのだ。
「さて、着いたね。マリーヴィア、話の前に魔力を込めるかい?」
「そうします」
聖花の庭は光の魔力が無ければ維持できない。
聖結界と似たような構造をしているらしいけれど、一体どうやって花々や樹木が現れるのかが不思議だ。
リカ様がご健在であった頃……、私が代理の聖女として巡礼の旅に出なくても良い程幼かった頃はこの白薔薇のガゼポにある魔石に光の魔力を込めることが修行の一環だった。
幼い頃はまだ魔力も少なくてここの魔石に魔力を込めるのもすごい苦労していたわね。
今はそうでもないのだけれど……。
聖結界を直すための魔力を込めるのに3日かかるとするのなら、ここの魔力はたったの数分かかるだけだ。
リカ様は一瞬なのだけれども。
……シオミセイラはこの場所を維持してくれるのかしら?
心配にはなるけれど、維持してくれることを願う。
この場所は歴代の聖女様が維持してきた場所だから。
「……このくらいで良いでしょうか?」
「そうだね。サクラの花びらも舞っているよ」
「なら良さそうですね」
桜の花びらが舞う程になったのならこの聖花の庭に光の魔力が籠もっている証拠だ。
ここの魔石の魔力は聖女の塔から通いやすいという関係で7日に1度は必ず魔力を込めに行っている。
最も、ここ最近は聖女召喚の儀が近いこともあり、巡礼の旅に行けない上に外出も禁止されていたから聖花の庭に毎日魔力を込めに行っていたのだけれど。
「マリーヴィア、話をしても良いか?」
「はい、大丈夫です」
「……その、だな」
オズワルド殿下は服のポケットから何かを取り出す。
……小箱、に見えるけれど中に何を?
「俺と、結婚して欲しい。婚約者ではなく俺の妻として共に人生を歩んで欲しい」
「……オズワルド殿下、それは……」
小箱の中には赤色の宝石が嵌った指輪が入っていた。
……赤色の宝石はオズワルド殿下の目の色そっくり。
確かにこの国では求婚をする際、自分の瞳の色と似た宝石か魔石を何かしらのアクセサリーに付けて渡すものだ。
だけど、このタイミングでの求婚は良くない。
しかも私に対するものは。
「どうした? 応えてくれないのか? マリーヴィア、今なら間に合うんだ。心配な事でもあるのなら俺の力でなんとかする、だから……」
「……私はオズワルド殿下の気持ちには応えられません」
オズワルド殿下には次代のヘンデルヴァニア王国を継ぐという崇高な使命がある。
その使命に偽りの聖女である私は不要なはずだ。
……一体どこを間違えた?
オズワルド殿下との関わり方に気を持たせるようなことはしてこなかったはずだ。
それにオズワルド殿下もそのような気配はなかったはず。
オズワルド殿下は召喚された聖女と婚姻を結ぶことになることはわかっているはずなのに、どうして?
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