第24話:古き因縁、王子の思惑
王都へ戻ったアルクたちは、ルミネッタが王宮に連行されたという報せに打ちひしがれた。セレスが一人、無力感を味わったように、アルクもまた、間に合わなかったという事実と、もし間に合っていたとしても、王家の理不尽な圧力の前で、どれほどのことができたのかという自問自答に苛まれていた。
ルミネッタを救うには、正面からの衝突ではなく、より巧妙な策が必要だった。
「殿下、王宮近衛兵団の動きは、完全にモンテクリスト侯爵家を狙ったものです。しかも、殿下たちの連絡が妨害されたタイミングと完全に一致しています」
ゼファルが、
「クリストファー王子……。聖女の力を私物化するつもりか」
アルクは、自身の無力感を乗り越え、冷静に状況を分析し始めた。ルミネッタを王宮から取り戻すためには、何か決定的な出来事が必要だ。
彼女の体調を回復させたのはガロンだ。彼が王宮に入り込めれば、ルミネッタの健康状態を監視し、王家による過度な消耗を防ぐことができるかもしれない。
「ゼファル。ガロンを、ルミネッタの治療師として王宮に派遣できるよう、手はずを整えろ」
アルクの言葉に、ゼファルはわずかに表情を動かした。
「殿下……それは、あまりに危険かと。ガロンは魔族。万が一、素性が露見すれば……」
「承知している。だが、他に方法があるか?ルミネを救うには、彼女の傍にいて、彼女の健康を守る必要がある。ガロンは、ルミネの唯一の『治療師』だ。この事実を利用する」
アルクは、ガロンの『マナ』による治癒の力を、人間社会で利用する危険性を理解していた。
何せ、その力の奇跡こそがルミネッタを聖女足らしめている力と同じものだからだ。
しかし、ルミネッタの命がかかっている今、躊躇している暇はない。
(どのみち、僕たちをセレスから遠ざけたということ自体が、密接にかかわっていることだということを独自の捜査網で把握していたからに他ならない…慎重に動いたつもりであったが…ゼファルはどこまで把握しているのか…)
視線を受けたゼファルは、アルクの決意を受け止め、早速、モンテクリスト侯爵家を通じて王宮に嘆願書を提出する準備を進めた。聖女の奇跡的な回復は、王宮でも大きな話題になっており、その『治療師』の存在は、誰もが興味を持つだろう。
しかし、王宮からの返答は、やはり予想通りのものだった。
「聖女の治療は、既に王宮の医官たちが総力を挙げて行っている。外部の者の介入は不要である」
やはり、王家はルミネッタを完全に手中に収めたいがために、外部の介入を一切拒否したのだ。特に、その『治療師』が誰なのか、その素性も分からない外部の人間など…という決まり文句の反論であった。
アルクは、嘆願書が断られたことに歯噛みしたが、その時、予想外の報せがゼファルにもたらされた。
「殿下!第三王子クリストファー殿下より、直々にアルクヴィス殿下たちに、王宮への呼び出しがありました…」
ゼファルの言葉に、アルクたちは驚いた。
「クリストファー王子だと?」
(嘆願書を断っておいて、今更どういうつもりなのだ…王宮も一枚岩という訳ではあるまいが、どういう経緯なのかが読めないな…)
「詳細な理由は不明ですが……ガロン殿の存在に、第三王子が関心を持ったようです。聖女ルミネッタ様を回復させた『治療師』として」
アルクは、クリストファー王子の思惑を測りかねた。断られたはずの嘆願書から、なぜガロンの名が浮上したのか。
しかし、これは王宮に潜り込む、唯一のチャンスかもしれない。これまでの経緯含めた判断が必要とアルクは考えて状況の整理を始める。
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