シャープペンシルは何処へ

 夏休み一日目の朝、僕は少しばかり困っている。明日長野県に持って行く予定である千円程度という一般的な物の二、三倍ほどするシャープペンシルを無くした。シャープペンシルごときでって思う人もいるかもしれないが僕はこれがどの他の物よりも使いやすくストレスが少ないからだ。僕は確かに昨日、紺色のペンケースに入れたはずだ。あれ、ペンケースも無い……?そう考えていた刹那

「有起、朝ご飯よ〜」

 母親がそう言った。某猫型ロボットが登場するアニメで何度も聞いたことあるセリフだ。とりあえず自室を出てダイニングルームへ向かった。

 おっとこれは驚いた……昨日の朝からテレビ台の下に置いてある父さんの紺色のペンケースではないか!正直、昨夜帰って探したもんだと思っていたが。まあそんなことはどうでもいい。明日の朝にでも言ってやろう。

 正直朝食を作ってくれるのはありがたい。えっと、白米に焼き鮭……?なんだこの日本の朝食って検索したら出てきそうな料理だ。普段はパンじゃないか!パン派じゃないか!!混乱しつつも僕はキッチンルームの収納棚から箸を取ろうとした、が箸がない事に気づいた。昨日の夜見た光景と結構違う。なんとそこには普段あるはずのカトラリーではなくお皿などの食器があったのだ!

「ねぇ母さん、僕の箸どこにあるか知らない?」

 そういた。

「お箸……?ああ!そうそう!違う場所に移したのよね……」

 思い出したかのように答えられた。

「何処に?」

 間髪入れずに問いた。

「右向いて少し右にカニ歩きしたところの引き出しにあるよ」

 カニ歩きはしていないが向きは変えずに右に二歩歩いた。

「そうそう!そこそこ!」

「ありがとう」

 感謝の言葉を述べたが内心どうして場所を移したのか不思議で不思議でしょうがなかった。

 僕は今、六人ほど座れそうなダイニングテーブルで朝食を食べている。いわゆる三角食べでだ。白米と焼き鮭しかないから直線食べかもしれないが……

「美味しい……」

 誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが母さんには聞こえていたらしい。地獄耳か。

「ありがとう」

 そう答えられた。

 朝食を食べ終わったので気になったことを訊いてみた。

「ねぇ、なんで箸。というかスプーンやらフォークの場所を変えたの?」

「それは変えたほうが使いやすいと思ったからよ。ほら。」

 そう言いながら指を指す。そして続ける。

「こっちの方が近いでしょ?IHクッキングヒーターから。」

「なるほどね」

 言われてみればそうなんだけどほとんど誤差じゃないか……


 自室に戻り再び思案した。消えた。正確には無くしたシャープペンシルの場所だ。昨日の寝る前には確かに机の上に置いたはずだ。紺色のペンケース。それだけは間違いない。だとしたら母さんか父さんが部屋に入ったということになる。とりあえず母さんに聞いてみる。

「母さん、僕の白色のシャープペンシル知らない?僕が大事にしているやつ。」

「知らないわねぇ……無くしたの……?」

「まあね……母さんが知らないなら父さんが知っていると思う。」

「パパ?確かに昨日の深夜物音がしていた気がする……多分○○の部屋ね……」

「ありがとう。」

 なんで父さんのことをパパって呼んでいるのか謎だ。今更感半端ないけど。

 しかし困った。父さんは今出張中で九州にいる。メールや電話をするという手があるが仕事の邪魔はしたくはない。

 再び自室に戻り考えた。まずなぜ父さんが僕の部屋に入ったかだ。僕に会いたかったのか……?いやそんなことはない。基本的に毎朝は会っている。夜は違うけど。そんな寂しがったりはしないだろう。だとしたら何か探し物でもあったのだろう。そして僕のシャープペンシルは消えている。なるほど。そういうことか。

 僕は父の書斎に入った。別に許可なんてとる必要はない。父さんだって勝手に入ったのだから。机の上に目をやった。羽ペン、万年筆、タブレット、本、ペン立て等々。そしてそのペン立ての中にあった。間違いない、これは僕のだ。そして視線を少し右に寄せると僕のペンケースもあった。

 なぜ僕のシャープペンシルがあったのだろうか。おそらくだが借りて返すつもりだったのだろうが忘れた。その理由は多分似たようなペンケースを使っているからだ。そして、自前の物を置き忘れ。もしくは無くしたことも起因しているだろう。


 その日の夜、「シャーペンとペンケースが無い!」と叫んでいる男性の声が聞こえた気がした。



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