聞いて驚くなよ、この夏休み俺は……

 さて、今年もそろそろやってくる。夏休みがね。その影響か、昼放課に聞こえてくる大半の内容が夏休みに関してだ。教室にいると嫌でも聞こえてくる。特にあそこの四人グループ。大きな声で話している。

「夏休み何やるの?私は勉強しなきゃいけないんだ……ほんと最悪」

グループの一人が聞いた。

「私は北海道に行くんだ!夏休みの2週目にね。他は基本的に勉強しなきゃだけど……」

「私はどこも行かないかな……かといってそこまで勉強に力を入れるつもりはないけど……」

「夏休み…あぁあぁああ」

 一人挙動不審だな。聞いていて思うのが今年は勉強するって言う人が増えている気がする。去年は勉強の「べ」の字も聞こえてこなかったのに……当たり前だが。そして早速僕のところにも聞いてくれる人が現れた。

有起ゆうき赤羽有起あかばゆうき。お前は何するんだ?この夏。といっても分かりきっているが。」

 身長が平均より少しばかり高く、茶色よりの髪色である人物が話しかけてきた。

「ご想像の通り、今年も長野よ。」

「今年ぐらいは行かなくてもいいんじゃないか?」

「そういうわけにはいかないんだよね。母さんが圧をかけてくるから……」

「そりゃあ大変だ。」

 本当に大変そうに思っているのだろうか。

「ところで想太郎そうたろうは何をするの?」

「聞いて驚くなよ。」 

 頷く。そんなすごいことをするのだろうか。とりあえず決める必要のない覚悟を決める。

「なんと俺はこの夏、アラスカに行くんだ!」

 おっと驚いた。まさかの海外とは。しかもアメリカという決して近くない場所。

「凄いな……流石に驚いたよ。」

 そう驚く。

「だろだろ」

 自慢げに言っている。三鷹みたか想太郎、君の稼いだ金で行くわけじゃないだろうに。

「写真を撮ってきてくれると嬉しいな。アラスカの風景は一度は見てみたいものだからね。」

「もちろんだ。」

 ありがたい。

「ところで毎年何してるんだ?長野で。」

 おっと、まさか何するか聞かれるとは思わなかった。アラスカに行くことを自慢したかっただけだと思ってたのに……

「旧友と会ったり色々ね。これが意外と楽しいのだよ。」

 そう返した。

「そういうもんなのか?」

「そういうものなの。」


 さて、今日は終業式である。校長先生がありがたい話をしてくれるんだとか。

「みなさん、明日から夏休みです。一年生の皆さん、中学校に来て初めての長期休暇です。楽しんでください。二年生の皆さん、多少は勉強しましょう。三年生の皆さん、旅行などは程々にして勉強してください。」

 昨年度まで小学校で校長をやっていた影響か緊張感がない。あとテキトーそうだ。面倒くさくなってるだろこれ…


 終業式が終わった後、担任が教壇に立ち話をし始めた。

「君たちは今年受験生です。去年とは違い勉強してください。と言いたいところですが中学校最後の夏休みになるのである程度は楽しんでくださいね。」

 ある程度ってことは勉強もしろってことなんだろう。校長も担任も勉強のことを言っていたが僕はそこまでしない予定だ。向上心がないからね。

「有起、また九月な。」

 そう言われたので僕は

「うん、また九月。」

 と返した。

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