竜之残響──Dragon's Resonance
とてどらごん
序 配信アーカイブ記録:20**/05/27 20:00:03〜
配信アーカイブ記録:20**/05/27 20:00:03〜
配信タイトル:「ドラゴンVは最期まで一緒に遊びたい!」
配信チャンネル:ラピス・サフィニア(チャンネル登録者数611人)
配信者(敬称略):ラピス・サフィニア、
備考:感染個体の襲撃あり、暴行、死傷(VLiverの為直接的映像なし)
[配信開始:「配信準備中」の文字と、青い鱗に黒のパーカーを羽織った、コウモリ様の翼の二足歩行型ドラゴンのイラスト。約2分後、画面が切り替わりイラストと同じ姿のVLiver(以降、ラピス)、白い羽毛に覆われ黄色の差し色の入った翼の四足歩行ドラゴンのVLiver(以降、白羽)、茶色の鱗に黒いたてがみ、黒縁眼鏡を着用し木工用ノミと見られる工具を持つ東洋龍のVLiver(以降、龍造寺)が映し出される。背景はオンラインプレイ対応の有名ゾンビサバイバルゲームのタイトル画面]
ラピス:はい、というわけで皆様こんラピでーす!宝石より生まれた青玉竜、ラピス・サフィニアですよ!よろしくねぇ!
(若い男性の声で。音程はテノール程の落ち着いた声だが、端々が震えている)
白羽:こんふわ!そよ風から生まれたみんなの……ごめんね、何回も言った挨拶なのにおかしいね、みんなのお姉さん!白羽ふわりでーす!
(若い女性の声で。音程はアルト程度。気丈に振る舞っているが精神的緊張からか言葉に詰まる)
龍造寺:えー、口上いる?いるかぁ……こんぐるです、宮大工系ドラゴンVLiver、龍造寺めぐるです、どうぞよしなに。
(中年男性と見られる声。バス程度の低い音程。言葉の端々に関西訛りが混じっている。三人の中で最も落ち着いている様に見える)
ラピス:さて挨拶もみなさん終わりまして、リスナー!元気してるー!?アーカイブ勢も元気ー!?
白羽:同接0スタートなんて何年ぶりかなぁ、なんだかVなりたてみたいで、ちょっと面白いね。
龍造寺:アーカイブ勢の皆様方も安全確保出来てから追ってちょうだいね、いつでも観れるさかいにな?
ラピス:まぁね、一応僕らの自己満足、みたいな最後の配信ではありますけども、こんな時だからこそ皆様の希望、あるいはちょっとした娯楽になれればと思いますので、よろしくお願いしますね。
白羽:ほんと、大変なことになっちゃったもんね。ゾンビなんて、それこそゲームとかの中の話だと思ってたのに……
龍造寺:ゲーム内のゾンビ程度やったらかるーくしばき回せるけどなぁ、流石に俺等は残機0のパーマデス制やさかい、ほんまやったらこんな騒がしいせんでコソコソ立ち回るんが一番なんやけどね、それでも……
ラピス:それでも、"ヒト"として死ぬのはつまらない!
龍造寺:せや!俺等何のためにVになった思うてんねん!ドラゴン好き、いやドラゴン狂いやからこそ、この姿もろたんや!
白羽:どうせ戦えない、生き残る可能性も低い、それなら自分の好きなように生きて、好きな姿で……死んでいきたい。そう、思ったんです。
ラピス:というような感じでですね、やっていきたいとおもいまーす!今回は特別耐久配信!これが終わる時はみんな死んじゃった時なのでよろしくお願いしまーす!あ、ラトルスネークさん「こんラピこんふわこんぐるです」ってことで、こんラピです!ゆっくりしてってねぇ。
白羽:こんふわでーす!ゆっくりして……ってのもなんか違わない?
龍造寺:こんぐるです、いやほんま、無理せんでな?危なかったら逃げるんやで?俺等の後追いとかせんでええからな?
ラピス:あっ癖で言っちゃった!(軽い笑い)「九州からなので大丈夫です」ってことで、まぁ大丈夫かな?
白羽:今日のあれはびっくりしたもんね……無事でよかった。
(管理者注:午後3時頃に行われた関門海峡封鎖作戦への言及とみられる。当時非感染地域とされていた九州地方へ殺到する避難民の抑制の為に実施された、関門橋および関門トンネルの爆破を伴う隔離作戦)
龍造寺:まぁ何事にも100%っちゅうのはあらへんねんけど、とりあえず今が無事ならそれでOKってことで、ほな行きましょか。
ラピス:うん、それじゃあやっていきましょう!サーバー開けるので入ってきてねぇ。
白羽:はーい、すごい、アジアサーバーがほぼ無人!
龍造寺:まぁ流石にこんな状況でゲームやろかってのんきな奴らは俺等だけでええけどな、案外個人サーバー以外のとこにおるのBotだけちゃうか?
ラピス:まぁ逆にいえば荒らしも来ないということで!前回はたしか拠点構築終わったあたりだったかな?襲撃に備えて拠点強化続けていきましょうね!
[背景画面がタイトル画面からゲームのプレイ中画面に切り替わる。以降、通常のゲームプレイと他愛ない会話が繰り広げられる。視聴者数は時折増減するもののほぼ1人をキープしている。
約56分後、龍造寺のマイクがガラスの割れる音を拾う]
龍造寺:接敵、320度方向……OK、倒した。
ラピス:ナイスぅ!
白羽:ナイスでーす……今何か壊した?
龍造寺:いや、こっちの音やな。一応バリケードはしとるけど、あんま時間なさそうやわこっち。いざとなったらカメラ同期は切るさかい、見苦しいとこは見せへんつもりやけどな。
[20秒程度の沈黙]
龍造寺:かなんわ、ほんま、こんなんまで「一抜けた」せんでええのにな。まぁ、来たもんはしゃあない。
白羽:兄ぃ(管理者注:龍造寺の愛称)、今からでも良いから逃げ──
龍造寺:あほう(低い笑い声)、約束放って逃げいってか?嫌や。俺は、この姿で逝くって決めたんや、止めんでええ。
[龍造寺のマイクが大きな破壊音、恐らく食器棚と思われる家具が倒れたものと類推されるものを拾う]
龍造寺:第一関門突破や。ほな、見苦しいないように、この辺に物資固めとくさかい回収してな?せめてガワだけは、皆の側に置かせておいてくれや、な?
ラピス:兄ぃ、ありがとう。付き合ってくれて、こんな馬鹿な集まりに最期まで。
龍造寺:"最高の"集まりやろ?後悔するような言い方しぃなや、信頼出来る仲間と、場所こそ離れてても最期までおれたんやさかい、後悔なんかあらへん。ほれ、105方向から来るで、準備しぃや。
[龍造寺のマイクがドアを叩く音を拾う。微かにうめき声らしきものも混じる]
龍造寺:早いわぁ、一応階段にローションぶちまけといたんやけどな。何に使てたかは聞いたらあかんで?
白羽:やだ兄ぃ、こんな時にまでやめてよ!
ラピス:配信枠消し飛んじゃうぅ!いや、判定する人もいまお留守かもだけど!
龍造寺:最期ぐらいあほ言わせてくれや!ほな、皆様これにて退場でございます、リスナーの方々、おつぐるやで!ほな同期切るわな!
[龍造寺のモデルの動作が停止。目を閉じ僅かに揺れるだけになる。ヘッドセットを乱雑に置いたらしい雑音が鳴り、直後、扉を蹴破ったとおぼしき破壊音が響く]
龍造寺:(かなり小さく)来いやボケ共が!お前らまとめて頭かち割ったるわオラ!舐めんな!お前らに負けへん、俺等は、俺等はな──
[以降、不明瞭な音声が続く。しばらく水音や肉を打つ音、破壊音などが響くが、やがて完全に沈黙する]
白羽:兄ぃ……兄ぃっ!
ラピス:兄ぃ……ごめん、何も出来なくてっ!
[1分程度、二人の嗚咽の声が漏れる。ゲーム画面上では拠点への襲撃が始まっているが、誰も操作をしない]
ラピス:やろう。最期までやらなきゃ。
白羽:ラピくん、私──
ラピス:やらなきゃ、兄ぃがまた死んじゃう。最期まで一緒に、って言って、物資も握ってロストしないように置いてくれて……ここまでゲーム愛しながら死んでいった兄ぃ、ここで守らなきゃリスポーン地点に置き去りになっちゃう。そんなの可哀想だ。
白羽:わかった、それが兄ぃの、願いだもんね。叶えてあげなきゃ。
[ゲーム画面に動きが見られる。ラピス、白羽両名の操作キャラが散開し、拠点を攻撃しているゾンビの排除を始める。数分後一掃が終わり、動かない龍造寺の操作キャラの周りに両名が再び集まる]
ラピス:とりあえず、ウェーブは終わったっぽい。しばらくは安心かな。
白羽:現実のゾンビもこれぐらい簡単に倒せれば良いのに。あ、これさっき兄ぃも言ってたっけ、オープニングで。
ラピス:言ってた言ってた、「俺等は残機0のパーマデス制やさかい」って言いながら。あの時は、生きてた。ほんの1時間前だよ。
白羽:こうなるの、覚悟はしてた。皆全然違う場所にいるんだもん、皆一緒に死んじゃうなんてあり得ない。誰かが先に逝って、誰かが残されて。分かってたけど、やっぱり、辛い。
ラピス:面白いよね。
白羽:え?
ラピス:面白いじゃない。僕ら、全くの他人なんだよ。顔も知らない、住所も知らない。知ってるのは声と趣味、あと同じお母様(管理者注:アバター製作者の意。ラピス、白羽、龍造寺共にアバター製作者は
白羽:ラピくん、あのね。
ラピス:うん?
白羽:私、この姿が偽りだなんて思ってないんだ。ヒビキさんも言ってたでしょう?「この身体は魂の器だ」って。肉体は持たないけれど、これは確かに君達の身体なんだって。
ラピス:それは──
白羽:ラピくんは経験ない?Vとしての姿か、自分の姿か分からなくなる時があったりしない?普通に生活してても、つい何かの拍子にVとしての一面が出てきちゃうの。この身体が生活に馴染んできちゃったみたいに、演技としてじゃなく、「素」として。
ラピス:あるよ、何度も。
白羽:だから、私は死ぬのは怖くない、そう何度も言い聞かせてたんだ。私の魂は、きっと白羽ふわりとして、この子が拾ってくれるって。変な話かもしれないけど、ね。
[白羽のマイクが微かに猟銃のものと思われる発砲音を拾う]
ラピス:近そう?
白羽:多分。下の階かな。マンションだから他よりは安全だと思うけど。まだ、人として動けるうちにってことなのかな……
ラピス:僕らも、続けよう。僕らの選んだ生き方で、最期まで。
白羽:うん。
[白羽のマイクがチャイムの音を拾う]
白羽:こんなときに?誰?
ラピス:助けが必要な人がいるのかもしれない。でも、気を付けて。ゾンビが間違えて押してるかもしれないし。
白羽:わかった。見てくる。ラピくん、また後でね。
[白羽のマイクが微かな雑音を拾う。ヘッドセットを外した音と思われる。扉を開ける音が微かに響く]
白羽:(小さく)誰?管理人さん──
[鍵が開錠される音、チェーンロックが引きちぎられたと見られる金属音。続けて、狩猟用散弾銃のものと思われる近距離での発砲音。何者かの足音が微かに響く。カメラがモーションを検知したのか白羽のモデルが不自然な動きを見せる]
ラピス:ふわちゃん?ふわちゃん大丈夫?ねぇ、ふわちゃん!聞こえたら返事して!
[中年男性のものと思われるなにがしかの呟きを白羽のマイクが拾うが、不明瞭で聞き取れない。後にビニール袋を触る音や缶詰が触れ合う様な金属音などがしばらく響いた後、完全に沈黙する]
ラピス:ふわちゃんも、逝っちゃった……みたいだね。
[配信画面上の白羽、龍造寺のモデルが移動する。ラピスの膝下辺りで、見方によってはラピスが抱きかかえているように見える]
ラピス:早すぎるよ。僕だけ残っちゃったじゃない。二人で兄ぃ守るって言ったのにさ。こんなにすぐに死んじゃって。皆で最期まで遊ぼうっていって、最後は一人ぼっちだなんて。こんなのないよ。
[30秒程度、嗚咽のみが響く]
ラピス:でもね、決めたことだから、やりきらなきゃだよね。死んでいった皆の為にも、最期まで楽しみました、って笑いながらアーカイブ見てもらえる様に、ちゃんと配信主がしないと、だよね。
[ヘッドセットを置いたと思われる雑音。微かに窓を開けた音]
ラピス:あああああぁぁぁ!!
[窓を閉める音。ヘッドセットを着用したと思われる雑音]
ラピス:(小さな笑い)ちょっとすっきりした!これだけ叫んだら多分居場所バレちゃったね。でも、長く続けるよりは良いでしょ?
[ゲーム画面に動き。ラピスの操作キャラが動き、龍造寺と白羽の操作キャラを隠す様に壁と扉を配置する]
ラピス:閉じ込めるみたいになっちゃったけど、一人で守るにはこれしか思いつかなかったや。良いよね?皆。じゃあ、続きやっていきましょうね!
[しばらくの間、ラピスの単独配信が続く。探索は遠くへ行かず、農業と畜産作業を重点的に行なっている。合間合間の襲撃に対応しながら修復作業もこなし、23分程度経過する]
ラピス:かなり拠点もね、充実して参りました!食料だけなら3人分回すには十分な感じですね、まぁ、うん、3人分、もう要らないんですが、それでもね!
[ラピスのマイクが玄関引き戸を叩いていると思われる衝撃音を何度か拾う]
ラピス:あー、やっとお迎えがきたみたいですね!これで皆を出してあげられるかな?最期ぐらいはいっしょにさよならしたいからね!
[ラピスの操作キャラが白羽、龍造寺の操作キャラを取り囲んでいた壁を取り払っていく。その最中、玄関引き戸が突破されたものと思われる破壊音が響く]
ラピス:えー、そろそろそしたらね、締めに入っていきましょう!和室からの配信だから実質無防備なんだよね、なので手早く!次の配信の予定はお察しの通りありません!というか僕自身がいないです!はい!皆様のおかげで最期まで良いVLiver生活が行えた事を誇りに思っております!
[ラピスのマイクが襖を押し倒したと思われる衝撃音を拾う]
ラピス:それでは皆様このあたりで!おつラピーー!またねー!バイバーイ!
[ラピスの締めの挨拶にゾンビのものらしいうめき声が混じる。直後、配信終了。最後のコマでラピスのモデルの目が大きく見開かれた様に見える]
世界大変動記録保存局 蔵
日本支部管理者: C.N. Rattlesnake
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