いいこいいこの後の祭り

@22235

いいこいいこの後の祭り

いまだ微かに残っているあの記憶。いいこ、いいこと私をあやす声、不器用ながらも暖かい子守唄のメロディー。とても安心する腕に抱かれた感触。きっと母がくれたであろう記憶贈り物

しかし、それを確認する機会はもう永遠に消え失せてしまった。素直に聞いておけばよかったのだろう、きっと喜んで話してくれただろうに。

私が母について知っていることと言えば、写真越しにみた容姿だけ。叔父さん達はとてもいい人だったのだから意地を張らずに聞いておけば、母の人となりや母との思い出だってたくさん知っていると誇ることができただろう。

怖かったのだ。

もう手に入らないものの温度を知って惨めな気分になってしまうのが。

母は一人車の中で、私を庇うようにして亡くなっていたようだ。

きっと、優しい人だったのだろうと分かる最期だ。

だから、怖くて聞けなかったのだ。

叔父さん達も死んでしまった今となっては、あの朧げな記憶の人物が母であったか確かめることすらできない。

後の祭り、なのだ。

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