1-4 高額請求が怖い

 

 はっ、危ない意識が飛んでいたんだよ。

 さっちゃんが理事長、そんな訳無いよ。


「さっちゃん、嘘は駄目。勝手にそんな事言ったら怒られちゃうよ」 


 嘘はいけないよさっちゃん。

 私達同級生なんだから、理事長なんて無理でしょ。


桐藤花乃歌きりふじ かのかさん。貴女の入学試験の成績は、英語と数学以外は良かったですの。但し、その英語と数学が酷すぎです。なぜ英単語で──」

「やめて言わないで!信じるから──!!」


 単語の間違いは、自己採点時に確認したから、知ってるよう恥ずかしい!


「本当にさっちゃん……理事長なんだ」


 凄いなぁ。私と同年代なのに、このだなんて……んっ?


「華ノ恵学院……さっちゃんの名字って確か、華ノ恵────」


 華ノ恵だ! なんで気付かなかったの私!


「ようやく気付いたのですね……猪突猛進ですか貴女は」


 それも言われた事あるけど、私猪じゃないよ!


「何で、私猪って言われるの?」


 さっちゃんが溜息ついた!? 酷いよ!


「桐藤さん、貴女の印象が変わりました」


 うんうん、私は立派なレディだよ。


「顔に感情の乗らない、ただひたすらに真っ直ぐな、『ウリ坊』ですわ」


 ウリ坊って猪の子供だからね!


「私は子供じゃ無いよ!?」


 身長は仕方が無いもの!


「あら? 私は可愛いと、言ったつもりでしたのに」


 そうなの、私可愛い? うへへへ。


「可愛いお顔が台無しですわ!」


 急に百八十度変わった!?


「なんでさ急に! 可愛いって言ったのに!」


 さっちゃん変だよさっきから!


「桐藤さんは、笑うと駄目です怖いです。なぜそんな笑い方なのか……勿体無いですの」


 はいそれは知ってますよーさっちゃん。


「仕方無いじゃん。お父さんが死んじゃってから、上手く笑えないもん……ぐすっ、うぅ…」


 思い出したら、涙が出て来たよ。

 駄目だ私!


「御免なさい桐藤さんっ、理由も知らずに酷い事を、言ってしまったわ!」


 慌てたさっちゃんが、車椅子を動かして私の隣に来たよ。なんで頭撫でるのさうぅ。


「御免なさい……かのちゃん」


 何て!? 今何ていったのさっちゃん!!


「さっちゃん、今私の事かのちゃんって……」


 うわぁ……嬉しいなぁ。かのちゃん、かのちゃんかぁ。

 初めてママ以外の人に言われたなぁ。


「あ……桐藤さん今、笑顔がっ────」


 んっ、どうしたのさっちゃん顔赤いよ。


「さっちゃんどうしたの?」


 さっちゃんの顔を覗き込むと更に顔が赤く?

 風邪かなぁ……理事長やってたら、疲れるだろうしね。


「それで、何で私理事長に呼ばれたの?」


 さっちゃんが自分の顔を、パンッって叩いて、また机の向こう側に行ったけど、痛く無いのかな。


「危なかったですわ……(可愛いじゃ御座いませんの)」


 さっちゃん小声で何か言ってる?


「何か言ったさっちゃん?」

「いいえ何でも無いですわ! それで、来て頂いたのは、確認したい事があるからですの」


 食い気味に否定してきたよ、まあ良いけど。


「確認って、なにを聞きたいの?」


 私、この学院来てまだ初日だよ? 

 何を確認したいのさ。


「桐藤さん、昨日は何を食べたのですか?」


 うーん、かのちゃんって言ってくれない。

 少しずつ仲良くなろうかなぁ。

 昨日のご飯は──お母さんに送って貰った、牛肉と玉葱で、丼ものにして食べたよね。


「牛さんの丼もの食べたよ?」


 美味しかったなぁ……。

 お母さんの行き付けのお肉屋さんに、時々、大安売りでお肉が売られていて、安いのにそれが美味しいの。


「牛なのね……"ミノ"なのかしら……」


 お母さんに送って貰った中には、ミノは入ってなかったよね。


「ミノは無かったよさっちゃん」


 それを聞いたさっちゃんが、また苦笑いした! ミノって言っただけなのに!!


「さっきから何なのさ! さっちゃんっ!」


 私は、目の前のテーブルを軽く叩いた。

 それこそ、トントンぐらいのチカラで。

 軽く叩いただけなのに


 ────ドンッ!! バキィッ!────


と音を立てて真っ二つになった。


「……なんで?」


 なんで……老朽化?

 私が止めを刺した?

 高額弁償……そんなお金無いよ!!


「落ち着きなさい桐藤さん!」


 うぅ……さっちゃん笑顔で怖い。


「大丈夫よ桐藤さん。弁償なんてしなくても良いし、請求なんてしませんわ」


 ホントに……高額請求されない?


「そんな眼で見てこなくても、大丈夫よ。あと、ついでにコレを、握って貰えるかしら」


 何それ、綺麗な石……。


「握れば高額請求しない?」


 さっちゃんが怖い笑顔で頷いた。

 握るしか無い。

 じゃないと高額請求がくるっ!


「そんなお金、家には無いもんっ!」


 力の限り握った。

 それこそ石を、親の仇の様に握り締めた。


「もう良いわ、手を開けてちょうだい」


 もう良いの? じゃあ石を……粉々になってるんですけど……どどどうしよう!?


 私は震えが止まらない。


 だってあんなに綺麗な石ならっ、絶対お高い宝石だよねっ!!

 高額請求が来ちゃうっ!?


「ふふっ」


 なんで笑うの、宝石壊れたのにっ!


「御免なさいっふふっ。あれは宝石じゃ無いわ」


 宝石じゃない……っ、それならっ、弁償しなくても良いのね!


「あれはね桐藤さん……」


 うんうん。アレは何の石なのさっちゃん。


「魔物の核、"魔石"って言うの」

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