1-2 登校初日


 メイクよーし、ネイルよーし、時間よ……あれ? もうこんな時間……遅刻!?

 急いで制服に着替えて、カバンを背負って、鍵はどこにっと、あった!


「行ってきま──す!」


 誰も居ないけどねー癖ですから。

 走れっ!走れっ!駅まで走れっ! 

 私って、こんなに走れたかな? 

 全然疲れないしこれなら間に合う! 

 いっけぇえええっ!!


「改札抜けて────滑り込みセーフ!!」


『駆け込み乗車は危険です!おやめ下さい!』

『他のお客様の迷惑となりますのでおやめ下さい!』


 あっ……これ私の事だよね御免なさい。

 うぅ周りの視線が痛い。

 でも私が視線を送ると直ぐ目を逸らされる……そんなに私は怖いのだろうか。


 電車の窓から外を眺めていると、学校が見えて来た。


「本当に大きい学校だなぁ……」


 私立華ノ恵学院。

 小、中、高の一貫校で、外部入学の奨学金が物凄く手厚くて頑張って入学した。

 校舎は九棟あって、三階建の初等部校舎が三棟、同じく中等部校舎が三棟、八階建の高等部校舎が二棟で、残る一つは実験棟。

 それと、奥内プールが付いた体育館が二つ、グラウンドが三つと、パンフレットに書いてあるし、お金持ってる学校だね。

 

 電車を降りて歩いていると、まわりが同じ制服の人達ばかりになってきた。


 皆んな背が高いなぁ……仲良くなりたいっ。

 私は話しかけたい想いを抑えて、前へと進む。

 だって急に話しかけて、怖いなんて言われた日には……トラウマが蘇って、学校に行けなくなるもん。


 小学校入学式の時に、友達が欲しくて話しかけたら『お化けこないでぇえええ!!』と泣かれて心に傷を負い、中学校入学式の時にも、意を決して話しかけたら『うわっ何アンタちょーキモいんですけど!?』と玉砕した。


 その癖、男子はやたらと話しかけてきてウザかったから、股間蹴り飛ばしたり、顔面ビンタばかりしてたら、ついたアダ名が鋼鉄の乙女。

 お陰で私はずっと一人さ。ははは。


「せめて……友達二人は欲しいなぁ……」


 負のオーラを滲ませながら、無駄に大きい校門を通り、体育館へと向かった。


         ◇ ◇ ◇


 校長先生はどこの学校でも長話……早く終わらないかなぁ。と、思いながらも時間が過ぎて、自分のクラスへ移動。


「私のお席はどこだろねーあった!」


 一番最後列だやったー! 前がちょっと見えにくいけどこれは仕方ないよね。


「あれ……?」


 クラスの人達もう仲良くなってる?

 なんか遠巻きに私の事見てる……なんで?


「このクラスで唯一の、外部生が貴女だけだからですわ」


 ゆっくりと電動車椅子が近づいてくる。

 車椅子……足悪いのかな。でも美人だぁ! 

 黒目黒髪スタイル抜群の大和撫子だぁ!


「そうなんだね。私は桐藤花乃歌きりふじ かのかだよ! 貴女は?」


 一瞬車椅子を後ろに引いて、逃げようとしてたけども、何でにげるのよ!?


「貴女、良く感情と表情が、一致していないと言われないかしら……声は元気なのに、お顔が御人形みたいで、怖いですの」


 言われた事あるよ?

 これでも頑張ってるんだよ? 

 それにしても美人だなぁ……じゅるりっ。


「無表情で近づいて来ないで下さいな。私の名前は、華ノ恵桜乃かのえ さくの。宜しくお願い致しますわ、桐藤さん」


 そんな堅苦しい呼び方、しないで欲しいな。

 私はもっと、フレンドリーにいきたいの!


「宜しくね、さっちゃん」


 私がさっちゃん呼びした瞬間、クラス内がざわざわと、何か不味い事言った? 

 何で皆んな睨むんだよ!


「皆さまお静かに」


 さっちゃんの一声で、皆んな黙った……えっ?


「桐藤さん。同学年とは言え、初対面でさっちゃん呼びは、失礼だと思いますよ?」


 何かさっちゃん怒ってる……? 

 良いじゃない友達になりたいもの!

 そんなに怒るならくらえ! 私の百有る奥義の一つ、泣き顔脅しだよ!!


「桜乃さん……さっちゃん呼び……ダメ?」


 その瞬間────教室内の空気が変わった。


「貴女っいえ、桐藤さん。分かりましたから、その顔をおやめなさい。もっとご自身の事を理解して、行動なさいなっ」


 やった──! じゃあさっちゃん呼びは良いんだね! でも自分の事を理解して行動って、何の事なのかな。


「宜しくね、さっちゃん! 私の事も好きに呼んで良いからね────ギュっとしちゃう!!」


 嬉し過ぎてついつい抱きしめちゃうよ!!

 あ──良い匂いだふごふご。


「こらっ、桐藤さんお止めなさい! 臭いを嗅がないで!?」


 もうお友達が出来たよ。

 幸先良いね私!


「フレンドリーに呼んでくれなきゃ、離さないからね、さっちゃん! ふごふご」


 ほらもうこんなに仲良しなのふふふ。


「分かりましたから、臭いを嗅がないでっ!!」


 あれ……身体が動かない? 


「さっちゃん何かした? 身体動かないんですけど?」


 何も言わず車椅子を動かして、机の前に移動していくさっちゃん。

 この態勢……皆んなが笑ってる!? 

 パントマイムじゃないよ!

 身体が動かないんだよ!


 ゴォ──ンゴォ──ンゴォ──ン


 何この音……まさかチャイム?

 物凄く鐘の音なんですけど、しかもお寺の。


「ほーい、お前ら席につけーい……遊んで無いで席につけー」


 先生助けてっ! 身体が動かないんです!?

 ふごふごした姿のままだから、物凄く恥ずかしいっ……あっ、動いた。

 急いで自分の席へっ……入学早々大恥だよ。

 周りから、クスクスと笑い声が聴こえるぅ。

 でも考えてみると、これは良い事なのかな? さっきまでの重たい空気じゃ無いから、好意的……とまではいかないにしても、悪いイメージは無さそうだ。


「後でさっちゃんに、連絡先聞かないとね」


 だってもう友達なんだから。

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