第12話 イルカショー危機一髪

でもそれは絶対にない。

ただ心配してくれただけか。


「うわー凄い!本当にクラゲだらけだ!」


ユイは、クラゲコーナーに到着してはしゃいでいた。

無邪気に目をキラキラさせている。

お前は、なんも心配しなくていいんだユイ…。


「タツキ!写真撮ろ!」

「お、おう…!」


パシャリ。


「いい写真撮れたね!」


まさかのツーショットかよ…。

油断してたぜ。


「んじゃ、目玉のイルカショー見にいくか」


きらきらとした水面を跳ねるイルカの尾びれが、青空のように澄んだ水しぶきを上げた。


「わっ…、凄い、綺麗…!」


ユイが子どものように目を輝かせて、前のめりになる。


「ユイ、イルカ好きだったけ?」

「べ、別に!でも、こういうのすごく綺麗だなって思っただけ」


ふいっと視線を外す横顔。

コイツ、子どもっぽいと思われたくないモード入ったな…。


俺は、小さく息をつきながらも心の奥では微笑ましい気持ちにった。

本当に子どもの頃から、変わってないな。


イルカショーも佳境に入り、MCの女性が明るく告げる。


「さあ、最後は特別体験コーナー!今日はお客様の中からラッキーな子どもたち数名に、直接餌やりを体験してもらいます!」


観客席がわっと湧き立つ。


「ユイ、お前やってこいよ」


俺は笑いながらそう言った。


「バカなこと言わないでよね!でも、ちょっとやってみたいかも」


ユイは反論しながらも、そう微笑んだ。


お互い笑い合っているその時、俺はある違和感を覚えた。


ステージの柵を越えて、イルカの深いプールの近くを小さな男の子がふらふらと歩いている。


危ないな…。と思っていたその時男の子がイルカプールへと歩み寄り足を滑らせて落ちてしまった。


「っ!」


観客席から悲鳴が上がる。

スタッフも飼育員も気づくのが遅くなり、間に合わない。


俺の中で時間がスローモーションに感じた。

(変身して助けるか?でも隣にユイがいる…!)


俺は視線を走らせ、観客席の後方にある柱の影を確認した。

よし、あそこなら。


「悪い、ユイ。俺、めっちゃ腹痛くなったからちょっとトイレ行ってくる!」

「は?こんな時に何言って…」


ユイが言い終える前に俺は足早に席を離れた。


柱の影で、腕時計のダイヤルを押しヘイズスーツが装着される。

(確か、変身機能より持続時時間が短いがステルスモードがあるってあのおっさん言ってたな。使うか)


ダイヤルをステルスモードへと合わせると、俺の姿は視認不能なステルスモードへと変化した。


よし、出陣だ。


俺は、柱の影からイルカのプールまでジャンプし泳ぎ、溺れている男の子をプールから引き上げた。


「おい、今あの子浮かなかったか?」

「なんか、超能力みたいだったな」


観客がざわめいていた。


そして、そのまま気づかれないようプールの端まで泳ぎそっとあがり、トイレに向かった。


《変身解除》


トイレの個室で腕時計のダイヤルを押し込み変身を解除した。

いつもの、霧島タツキに戻った。


危なかったー。

危機一髪だったぜ。


そのままトイレを出てユイが待つ観客席に向かおうとすると、スーツを着て帽子を被ったおじさんが立っていた。

(確か、あいつ泉ビルの跡地に向かっていったおっさんだな。なんで水族館に?)


「見事だったよ、霧島タツキくん」


!?

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