第2話 クローゼットに住む悪魔系彼氏
翌朝、目覚ましが鳴ると同時に、こよみは天井を見上げていた。
夢だと信じたいといつもなら自分の目覚めの良くない体質にうんざりしていたが。
今回は久々に目覚めが良く私は深いため息をつき、
あの出来事が夢だと信じたかった。
「……夢じゃないよね…多分」
カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しく、何事もないような一日を送りたいと
そう願うのも束の間、
「おはよー」と現実はそうはいかなかった。
「こよみちゃん、朝から寝顔可愛かった過ぎ、
いや、これは犯罪レベルというか、あ!?写真でも取ればよかったかな??」
と陽気な声とともに、少年ーーいや、私が召喚してしまった悪魔、
ルカが何故かクローゼットから這い出てきた。寝癖はない、
というか悪魔に寝癖の概念はあるのだろうか。
「……やめてくれ、というか何その完璧な寝起き姿は、
メイクとかしたまま寝ていないよね??」
「ノーメイク!!元がいいからね!!」
ポーズまでつけてキメ顔をされて、こよみは思わず布団を被った。
「あのさ、今日から普通に学校に行くから、頼むから家でじっとしていてくれ。
ついてこないでね、絶対に。」
「はーい!!了解っすー。こよみのプライバシーは何より大事!!」
軽く受け流すような返事に、私は不安をよぎってしまった。
とりあえず、朝食を取るように私はリビングへと足を運んだ。
「おはよう、こよみー朝ごはん出来ているわよ」
「ーー!?!?」
と普通のようにルカがリビングについて来たため、
私は青ざめた顔をしてしまった。
「大丈夫、俺、今は
見えないし、聞こえないし、気にされない状態だから。」
「便利なものだね……」
「ご都合主義的な??君にしか見えない俺って、ちょっと特別感がない??」
こよみは誤魔化すようにガン無視でご飯とおかずをかきこんだ。
そんな、こよみの姿に母はまるで物珍しそうにキッチンで棒立ちとなっていた。
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ルカについてこないよう、しつこく念押しした後のことだった。
私はいつものように通学路を通るように自転車を漕ぐ。
信号が赤に変わった。
ーー昨日よりはほんの少しだけ、心が軽く感じる。
そう思った矢先に。
「こよみ」
背後から声をかけられて、ハンドルがブレそうにになる。
「祐樹……」
信号待ちで止まった先に、祐樹が立っていた。手に学校のカバン。制服は相変わらずきっちりしていて、私にはそれが眩しく心をかき乱すには理由十分すぎた。
「昨日はごめん、いろいろと言おうとしたんだけど。言えなくて…」
「別に、気にしていないから」
こよみの声が少しだけ上ずりそうになった。
自分でもどういう風に接すればいいのか、困惑していた。
「なんか、前よりも元気そうだな」
「そうかな??」
自分でも思っていなかった言葉に、一瞬戸惑いながら、こよみは小さく笑った。
「ちょっとね、気分がスッキリしたんだ」
ーーーーーーその一部の会話の一部始終を。
見上げた街路樹の枝の上でルカはじっと二人を見下ろしていた。
「は??なにあれ。俺んときより距離近くない??」
白シャツの襟を直しながら、木の上で嫉妬するルカはふてくされた顔をする。
「俺、『理想の恋人』としてこよみに召喚されてきたのに、
好きなのは俺じゃないの??違うの??なんであんな身だしなみを丁寧に毎回していそうな、女性との恋に興味なさそうな童貞っぽい優等生にデレデレしてんの??え??ていうか、『ちょっと、スッキリしたかも』って俺のことじゃないの??完全に俺じゃん!!違うの??ねえ??」
そんな、偏見の混ぜた嫉み愚痴を言って、
横に止まっていたカラスに目を向けると、「カアァ」とだけ鳴いて飛んでいった。
「……はいはい、そうですよね、俺が重いのは自覚していますー」
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授業中のこよみは集中できずにいた。
なぜなら、教室の窓の外ーーちょうど目線の先にある木の枝に、ルカが腰掛けていたからである。幻覚ではないかと思った。
(いる!?なんで、家で大人しくしてって言ったのに!!来ている!?!?)
いくら、ルカが悪魔が気配遮断??認識阻害??どっちでもいいが、
しかも足をブラブラさせながら、ノートに何か書いている。
(『祐樹と話すときの距離=45cm 目線回数=6回 うち1回に頬染め』)って
何集計しているの!?!?
こよみは思わず目線を逸らしたが、授業どころではなく、頭に入らなかった。
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放課後、昇降口で靴を履き替えると、祐樹がふらりと横に来た。
「……なあ、帰り、一緒に帰る??」
あまりにも自然な言葉に、こよみはまた心がぐらつく。
でも、祐樹には彼女がいるのでは??私なんかがいたら、迷惑なのは私なのでは??
と思った私はそんな思いとは裏腹に最後のチャンスだと思い。
「……いいよ」そう返事をした。
外に出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。
祐樹と歩くその並びを、ひとつ隣のビルの屋上からルカが不満げに眺めていた。
「……ちょっと近くない??なにあれ、なんであんなナチュラルに隣歩いているの??」俺はまだ、隣で一緒に歩くこともないのに!!と両手を頭に組みながら、ルカは屋上のフェンスの上を歩く。
そのとき、ふっと足を止めて、表情が変わった。
「ん??」
遠くの角に立っていた人物。顔は見えない。
ただ、じっと祐樹とこよみの方を見つめていた。
風が吹くと、その人影はすっと曲がり角の奥へと消えた。
「気のせい、じゃないよな……」
ふとそんな不穏な予感を心の片隅に置きながら、ルカはこよみよりも早く先回りして帰った。
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帰宅後。
こよみは制服のままベッドに倒れ込んだこよみの耳に、ガラリ、とクローゼットが開く音がした。
「おかえり〜今日も頑張っていたね、こよみ」
「……ついてきたでしょ!!!!」
「ん??いやいや、ちゃんとお留守番してたよ??木の上で」
「木の上って言っちゃってるじゃん!!それ留守番じゃないから!!」
「だって、君が無事かちゃんと見守っていたし??愛って、そういうもんでしょ??」「……こわいわ!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶこよみに、ルカはニコニコと笑っていた。
「でも、なんか今日は……変な気配がしてた。あんま人間っぽくない、目線……」
「え??」
そんなルカの小言にこよみは動きを止めた瞬間、
んじゃ、おやすみーとクローゼットに戻っていき、ルカは引っ込んだ。
部屋にはまた、こよみ一人になったが。
今夜からはもう自分一人部屋ではないことを彼女は確かに理解していた。
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