その2 第九話 涼子、諦める

第九話 涼子、諦める

 

 最近涼子の店にいる頻度が上がった気がする。前はほんのお手伝いっていう程度だったのに、今では頼れるアルバイトというくらいの存在感がある。

 気になったので涼子が私の部屋に遊びに来たタイミングで聞いてみた。


「ねー、りょうちゃん。最近店の手伝いすること増えてるね。学校のこととかしなくていいの? なんかあった?」

「マコトにはなんでも見抜かれちゃうね。うん……実はさ、調理師専門学校辞めようと思うんだ……」

「エッ!? なんで? 頑張ってたじゃん」

「ん~~。確かに頑張ってたよ。でもね、もうムリ、ついてけないの。私だけ無様なくらい技能が足りないの。クラスに私1人だけ。ぜんっぜん技術が追いついてないの。当然私1人のために待っててくれるわけもなく置いてけぼり。自分で自主練してもだめ。全員自主練してるんだもん。永遠に追いつかない。…………もう、嫌になっちゃって……。   もう やめたいの」


 そう言う涼子の顔は涙こそ出ていないが、とてもとてもつらそうで。無念そうで。かわいそうで。私は、うん。うん。と同意するしかなかった。


「情けないよ……。私がわがまま言って入れてもらった学校なのに、1年ももたずに辞めたいだなんてさ。こんな根性なしな自分は嫌いだよ。でも、でも……」

「いい、いいから、半年以上頑張ったじゃん。ずっとつらかっただろうに、言い出さずによくやったじゃん。もういいって。私と一緒に、麻雀…やろう?」

「うん」



 こうして、涼子は調理師専門学校を辞めて家業を継ぐ道を選んだ。


◆◇◆◇


 学校を辞めて本格的にメンバーとして働く道を選んだ涼子だけど、さすがに私みたいなことはしなかった。つまり遅番でスパルタコース。超高速レベル上げ可能のハードモード。みたいな無茶はやらないってさ。そりゃそうだ。涼子は早番で無難に働く道を選択した。とは言え、ふつーの早番メンバーだってかなりの才能を要する仕事ではあるのだが、そのくらいの才能は涼子だって持ち合わせてる。伊達に生まれた時から雀荘で暮らしてない。


 涼子は調理師専門学校で学んだ知識を活かして早番でまかないを作った。それがすごく評判よくてメニューに『涼子のまかない』というのが新しく追加された程だった。これ程の腕があっても音を上げるとは、調理師専門学校とはいったいどんなレベルの世界なのだろう。私には想像もつかない。


 涼子には悪いけど、涼子が家業を継ぐ事にしてくれて私は嬉しかった。涼子とこの『離れ小島』でずっと働くことが出来るなら、私は他に何もない人生でもいい。これで充分過ぎるくらい自分の人生に満足できる。

 ちっぽけかもしれないけど。私は今すごく幸せだ――




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