第10話 春、まだ名前のない未来へ
あれから数ヶ月。
引っ越しも済ませて、今は3人で小さなアパートに暮らしている。
最初は手探りだった共同生活も、気づけば朝の食卓で笑い声が響くほどには馴染んでいた。
「朝ごはんできたよー」
キッチンから彼女の声がする。
テーブルには焼きたてのトーストと、少し焦げた目玉焼き。
「ちょっと焦げたけど……」
「それがいいんだよ。うまそう」
彼女が少し照れた顔をして笑う。
その笑顔が、どんな高級ディナーよりも、俺の胸を満たす。
息子さんが食パンの耳を齧りながら、「ねぇ、おにいちゃん」と声をかけてくる。
「なに?」
「きょうね、ほいくえんで“かぞくのえ”ってかくの。だから、いっしょにいる絵かいてもいい?」
「もちろん」
「やったー!」
そう言って笑う彼女と息子。
その姿を見て、俺はふと思った。
何があってもこの日々を守っていきたい。
完璧じゃなくても、不器用でも――このあったかい朝を、ずっと。
洗い物をしている彼女の背中を見ながら、ふと口にした。
「……いつか、“お兄ちゃん”から呼び方変わるのかな」
「ん?どうだろうね〜、けっこう気に入ってるっぽいし」
「まあ、気長に待つよ」
「そうね。でも、変わったら……ちょっと泣くかも」
「俺も」
春の風が、カーテンを揺らした。
俺を見送る息子はいつも元気に「いってらっしゃい!」と叫ぶ。
「今日も、はやくかえってきてね、お兄ちゃん」
まだ「パパ」じゃない。けど、それでいい。
彼女も俺も、焦らずに、今を積み重ねている。
まだ家族と呼べる関係では無いかもしれない。
でも、それでも――
俺たちは、ちゃんと前に進んでいる。
今日も、明日も。
未来はまだ曖昧だけど、希望だけは、確かにここにある。
朝出勤中にとんでもないギャルを発見した俺は @ipin3291
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます