第27話 嫉妬

瓦礫の山が広がる廃砦跡。かつて「ルディアの防壁」と呼ばれたその場所に、三人の影がひっそりとたたずんでいた。


ルトスは静かに視線を巡らせ、破壊された石壁の破片や地面の亀裂を丹念に観察する。周囲の空気は冷え切り、風が時折砕けた石を揺らし、ささやくような音を立てていた。


「クスマとマルクの戦闘跡はここか。血痕もここから何も残っていないな。おそらく魔道具を使ったのだろう」

ルトスは低く呟く。魔道具とは魔力を通すことで魔法や特殊な効果を発揮することのできる道具だが、材料が非常に貴重で量産はされていない。

そんな物がただの砦の体調に渡されていたのだ。


バルートは魔力の波動を広げ、広範囲をくまなく探査していた。強い魔力の痕跡が点在しているものの、それは確かな居場所を示すには薄すぎた。


「痕跡は消えてますが、魔力の残滓を分かりそうです。」


黒いミスリルの鎧に身を包んだマルクは、無言でその場を警戒するようにルトスの横に控えていた。




そして、少し離れた場所の上空にいる者には誰も気がついていなかった。


***

「あの黒い鎧がクスマの言ってた襲撃してきた魔物ね。見事に砦が全壊してるわね」


この女の魔族がここに来た理由はたまたま訪れていた街に瀕死の兵士が転移してきたからだ。普段は魔王の側から離れない女は、今回の出張も乗り気ではなかった。しかし訪れた街で貴重な魔道具を渡された兵士が現れたのだ。


今回の件を(勝手に)解決すれば魔王に褒められらと思い、クスマから情報を聞き、街にいた空間魔法使いに砦の近くまで運んでもらったのだ。


「けど、襲ってきたのは鎧とオーガと言っていたはずだけど、あれはリッチ、いやノーライフキングね。問題はその横だけど、あれは人間?」


この女もこの砦が穴から出てくるアンデットを抑えるために作られたことは知っていた。そのため、アンデットの生みの親であろうノーライフキングは意味がわかったが、人間がそれも襲われずにいるのは理解できなかった。


「いや、ダンジョンから来たと名乗ったとクスマが言っていたわね。ならあの人間がボスなのかしら。最初の一撃を彼に向ければわかるわね。」


そう言い、自身の考えをまとめた女は行動を開始するのであった。


***


突如、上空から瓦礫を破壊しながら、しなやかかつ強力な一撃がルトスに向けて放たれた。


—シャラララ… ドゴッ!


鞭の音。鋭く空気を切るその響きに、三人は瞬時に別の行動を取った。

ルトスはできる限りその場から離れようとバックステップを。

バルートは敵に手を向け魔法の準備を。

一番早く反応したマルクはルトスに迫る高速の鞭をハルバードで弾いていた。


「誰だ……」

ルトスは警戒のしながら、鞭の方向を睨む。


黒髪が風に乱れ、長く黒光りする鞭を優雅に振るう女性の姿が現れた。


「あら、防がれてしまいましたか。はじめまして、メラと申します」

その声は甘く、しかし冷徹な響きを帯びていた。


ルトスはその名に凍り付いた。


(メラ…メラだと⁉︎)


戦略士官時代の記憶が脳をよぎる。


魔王直属の大罪と呼ばれる幹部。その一柱を担い、嫉妬の魔女と呼ばれる女。


「お前があの大罪幹部の嫉妬か」

ルトスは吐き捨てるように呟いた。


メラは冷ややかに微笑む。


「ご存知なのですね。ならば話は早い」


メラが自身の周りに鞭を縦横無尽に回し始める。マルクはそれに応じハルバードを構えてたが、


「逃げるぞ、バルート!」ルトスの声が響く。


だが、メラはルトスに鞭を大きく振るい、ながらその言葉に反応した。


「ダメですよ。私は砦が襲われたことの調査に来たのですから逃しませんよ。」


バルートの使おうとしていた空間魔法の転移が不発に終わった。。


「転移が失敗?妨害された?」

バルートは慌てて魔力を集中させるが、転移が発動することは叶わなかった。


「ふふっ、さてあなた達のことを教えてくださいな。クスマからの情報じゃ少なすぎたのよ」


その言葉にルトスが返した。

「クスマとはマルクから転移で逃げた男だろう。お前が来るには早すぎるだろう?」


「時間稼ぎ?それとも情報収集かしら?私も情報が欲しいからのってあげるわ。転移の魔道具があるのだから魔族にも空間魔法を使える者はいるのよ。あなたの後ろの骸骨みたいにね。」


続けてメラが言った。

「それであなた達は何者なのかしら。」


ルトスはその質問に答えることなく風魔法を使った。

メラに向かって風の刃が飛んでいったが、なんでもないかのように鞭で掻き消された。


ルトスの行動を見た瞬間マルクはメラに近づきハルバードを振り下ろした。メラはそれをバックステップすることで回避し、魔法を発動しようとしていたバルートに向けて鞭を振るった。


バルートは魔法の発動をやめ、鞭での攻撃を避けた。


メラに一番近いマルクは鞭を振るったメラにここぞとばかりにハルバードで突きを放つが避けらた。追撃をしようとしたメラがマルクに鞭の持っていない左手をマルクに向けた。その瞬間一瞬マルクの動きが止まった。

その隙をメラが見逃すわけなくマルクは強烈な蹴りを腹部にくらい吹き飛ばされた。


「マルク!バルート援護しろ!」


ルトスはマルクが立っており無事なことを確認すると槍に魔力を通しながらメラに近づいた。


メラに漆黒の槍が迫るが、落ち着いて鞭で打ち払う。その隙を狙い突きを放った。その攻撃さえもメラには避けられたがルトスが


「吹き飛べ!」


と叫ぶとルトスの突き出した槍の矛付近から風の魔力が渦巻き、爆発のような風圧が槍から放たれ、その攻撃はメラを吹き飛ばすのであった。








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