最終章『人喰う家』
専門家
問1. 生存者
「きみだね。唯一、あの場所から帰ってきた。生存者というのは」
『人喰う家』の生存者のひとりで、市立■■学園の生徒。その男子高校生は、どこか落ち着きがない。
学校の空いている一室を、お借りして、呼び出した。室内は少し埃っぽい、普段はあまり使われていないんだろう。
室内には、私と先輩、この男子高校生だけ。
部屋の真ん中に、長机が二対向かい合わせに並べられていて。長机の長辺に平行してパイプ椅子がそれぞれ二脚ずつ合計四脚。
長机の短辺の右側に放置されたホワイトボード、左側に唯一の出入り口となる扉だ。
彼はいかにもひ弱な男子高校生といった風貌。もやしとまではいかないまでも、背の高さに対して体格は頼りない。
所作がそう感じさせるのかもしれない。
制服はヨレていて、なぜか上履きでなく、来客用のスリッパを履いている。顔はぱっとしない、おそらく、どちらかというと童顔。髪の毛は黒色、ぱっとしないショートヘアー。
「えっと⋯⋯あの、そうですけど。ボクはなんで呼ばれたんですか?」
彼の、どことなく、幼い言動と見た目が、噛み合わない。私の後ろに立っている、先輩のせいかもしれない。見た目だけみると、ガラが悪そうにみえるもんなぁ。
「『人喰う家』のことで話があってね。言っとくけど、教師に許可は取っているから。変な奴だと思うのはきみの勝手だけど。一応これでも、依頼で来てるから」
私が話しかけるたび、彼の手元が震えている。特に、『人喰う家』、生存者。この単語に、顕著な反応を示している。
明確な、警戒もしくは、恐怖だろう。今まで何度かこの手の対話を試みたことならある。忌まわしいこと、受け入れられないこと、そして罪悪感。そういうものを、抱える人々は似たような反応をする。
どうすれば、打ち解けられるか、なんて答えはない。あるわけがない。専門家ですと言っても、結局、疑念を抱くことだろう。
「な、なにも知らない!」
その見た目、態度、様子から想像できないほど。強く大きな叫び声を、あげる。彼の顔は青ざめていた。そしてそのまま、部屋を出ていこうとする。あいにく、私達としても、そういうわけにもいかない。
先輩が、ドアの前で仁王立ちしていて。彼は出られずに、泣きそうな顔をしているが、私もこればかりは、どうしようもない。
「け、警察呼びますよ?」
声は震えている。
スマホをポケットから取り出して強がるけれど、いつ泣き出してもおかしくない表情をみる限り、それは不可能。
まあ、それにかけられたところで、今回警察も動くことはできない。今回の調査は学校と警察両方からの要請によるものだから。
「かけたいなら、すれば? それは止めないし、きみの自由だもの。それより、こっちの話を聞いてもらえる?」
聞く以外の選択肢はそもそもない、聞く義務がこの子にはある。たとえ、それがどんなものであったとしても。
「聞いたら、帰してもらえますか?」
まあ、そうだなぁ。余地はなきにしもあらず。
「うん。きみ次第」
真相とは往々にしてろくなものではない。
私達は、本人の体験自身を聞いた上で判断する他ない、聞いた内容も含めてからでなければ材料が不足していたから。
「こ、これでいい?」
自らの体験を話し終えた彼は呟いた。
「待ってくれる。悪いけど、きみに、まだ少し用がある、というかできてしまった」
男子高校生と、頭の足りない先輩は状況を理解することができないらしい。
「約束が違うじゃないですかっ!」
バンッと机を叩いて声を張り上げた。けれど、机を叩いた手がじんじんするのか。涙目になりながらおとなしく座り直した。
「きみ次第とも言ったけどね。そもそも『人喰う家』或いは『人喰うた家』とは建物に入った人を閉じ込め出られなくする、そして行方不明にする噂として流布されている、だよね?」
彼の首が縦に小さく頷く。
「だったら、何故、きみは二度も帰ってこられたのだろうね?」
何より、特定の学校や地区にのみ都市伝説として噂として影響力を持っている。これらが意味するところは何なのか。
「運が良かっただけ⋯⋯だと、思う」
ほんとに運が良いというなら、そもそも巻き込まれたりなどしない。それに、運悪く巻き込まれたとも言ったはずだ。
「そうかな? きみは、一度、運悪く巻き込まれ家族と共にここを離れた。そして
偶然というには人間の都合が重なり過ぎている。これは偶然などではない、必然。
「わざとボクが、そういうつもりですか? ボクだって迷惑してる! おかげで学校でも馴染めないのにっ。好き好んでこんなことするわけない」
だろうな、と思う。
人はそういうものを避けたがる。あいつといると良くないことが起きる、だから関わりたくない、無視しよう、と。
あの家では良くないことが続く、きっと、なにか悪いモノ、場所に違いない。あのアパートでは、人が頻繁に、だから済まない方がいい、云々。
目に見えない、あれそれ。そいうものをきらうそして遠ざけ、穢れと畏怖する。
「きみ
先輩は話について、これなくなったのか。聞くのはやめたらしい。元から、そんなことを期待してない。
「だったら、何だって言うんですか? ボクが疫病神だと思っているんでしょ、どうせ。それか父親に頼まれたんです?」
不信感をにじませ呟く男子高校生。ただ、その不信感は私という個人に向けられたものでは無さそう。むしろ父親か、私にはどうでもいい。
「きみの父親なんぞ知らないねぇ。言ったと思うけど学校側からの依頼だよ、
──家族?
知ったこっちゃない。そんなものはよそでしてくれ。私達は何でも屋じゃない。
つい苛立ち、顔に出てしまていたらしい。
「⋯⋯⋯⋯」
何か言いたげに、口をつぐんでおとなしく座っている。
「さて、話しがそれたね。出てこれないはずのあそこから、実はきみ以外の生存者の報告例があってね。この噂自体も、特定の地区に集中している。まず、きみを呼び出した理由から言おうかな?」
長たらしく語るのは性に合わない。が、説明なしに、用件だけ。伝えても混乱させてしまう。
「もったいぶるように言うのやめてくれませんか? さっさと言ってください」
それが逆に誤解を招いたようだ。
「もったいぶったわけじゃない。把握しうる範囲で悪いけど、報告にあがっている生存者はきみを除くと、すでに死亡、ないし、行方不明となっていてね。要するにきみが私達としては重要なのと、きみへの警告だよ」
すでに調査による情報の入手は行き詰まっていた。いや、違うか。
「ボクも死ぬか行方不明にって脅しなんですか? お金が目的? なんなんですかこんなことして楽しいですか?」
金でかえるものばかりじゃない。それを理解するには不十分か。もう少しマイルドに伝えるべきだったな。
「まあまあそう言わないでよ、そんなつもりはないってば。人の話は最後まで聞こうや? 死にたくないならなおさら。『人喰う家』という存在はあのマンションの廃墟を本体とする怪異という形になっているけど、これは違う」
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