案件:『人喰う家』

「じゃあ、逆に聞くがよ。『人喰う家』の方がよほど、案件、調査対象、足り得るのに『廃墟●●マンション』を案件にしている理由は一体なんだ? 怪異らしいのはどう考えたって『人喰う家』だろ? 周囲の人々に調査をして感じたのは、『廃墟●●マンション』はただの心霊スポットにしか思えない。そんなものをなぜ何度も調査させたがるんだ?」


 ちょうど、太陽の辺り加減だろうか、先輩の顔には影がさして見えない。

 


 そんなもの知るかと返しても意味はない。


 ここにあるべき答えは、憶測で同一だと考えたのだろうという結論だ、『廃墟●●マンション』=『人喰う家』。


 何故、調査名目が、『廃墟●●マンション』なのか?


 現場『廃墟●●マンション』に踏み入れないことが注意事項なのか?


 どうして、『人喰う家』あるいは『人喰うた家』が調査対象ではないのか?


 ──それは。それは?


 場所と意味を理解することで事故(怪異による被災)の悪化を引き起こすリスク?


 だったら『廃墟●●マンション』であると都合は悪いはずだ。場所が特定されていて開示されているのだから。


 何を知るための調査か。


「えっ、あ。先輩っ? ちょっ!」


 実に間抜けな私の声。

 

 しくった。端から話し合いなど先輩はする気はなかったらしい。マンションの玄関から中へくぐってしまっていた。私が考え込み注意がそれることが目的だったらしい。クソっ、はめられた。


 

 道路を渡り、たどり着いた頃には、完全に玄関の扉が閉まって先輩は中へ消え失せた後だった。


 今さらひとり帰るわけにはいかない、先輩を置いて帰るような奴と、組むような人が今後現れるわけがない。


 携帯を一度いじって。


 覚悟を決めて、玄関扉に手をかけ、中へ踏み入れることにした。


 玄関ホールへ踏み入れた時、ふと、私は疑問を覚えた。あるべきナニカの不在だ。


 心霊スポットや、そういう類いの場所に、いるべき、ナニカが、ここにはいない。


 先輩には伝えていないけれど、ナニカ、いわゆる幽霊を。世間でいうところの霊感、と呼ばれる体質が昔から私にはある。


 好き好んでこんな体質など、と思ったことは、何度もある。


 それはそうとして。あるべきナニカがいない、この異常事態に、私は困惑していた。


 普通、どんな場所にも一定数いる、ただこういった場所になると顕著になる。それが私の中の当たり前で。


 ──だからこそこの状況は不気味だった。


 いない、いなさすぎる。皆無なのだ。


 動物園に一匹も動物がいない。水族館に魚がいない。いや、もっと質が悪い。この異常事態を言葉で表せない。地球に人っ子ひとりいない? 


 当てはまる言葉が見つけられない。


 のんきに先輩は廊下の先へ進んでいる。それをただ、私は眺めていた。この時、私は玄関ホールから、先には踏み入れてはいない。


 私が記憶する限りは。


 どのくらい、そうしていたかは覚えていない。


 ──この時私達はズルをした。正確には、私がズルをした。出るために。


 玄関の扉が再び外から開いた、理由は私が入る直前に、別で近辺調査をしていた人物に。住所を添付したメッセージを送信したから。


 正直これは、賭けだった。


 スルーされる可能性と、そのまま同じように閉じ込められる可能性。そして、次の試みが成功する保証はなかったから。


 開けたまま外に立っててもらう。続いて私達が内側から、その開いた扉をくぐって出る。


 もしかしたら出られない、というリスクは、それなりに高いものだった。



 人に限らず大抵のモノにとって玄関や部屋、空間というものは特殊な意味を持っている。いわゆる結界という概念。だからこそ人を利用し、中に入れてもらわねば入れず、出られないという怪異を見聞きする。


 もちろん例外の方が多い。


 が、この際。この賭けは成功したのだろうと思われる。そうでなければ、私達が外に出た事実や記憶と矛盾するから。


 

  

────実のところ、この時の出来事を、記憶の大半を。私達は、再び、調査に訪れるまで忘れていた。何故忘れていたのかは不明。このせいで調査、そのものが、難航したのは言うまでもない。


 事実として、この時、私が呼び出した人物が一体誰だったのか。私も先輩も未だに覚えていない。誰か呼んだ、同じように調査していた人物ということ以外まったく思い出せないから。


 怪異にとって、これは何らかの規定に反した行為に該当したようである。つまり、ペナルティとして、私達はそれらを失ったこととなる。


 抵触した可能性のある行動はいくつか考えられる。また、抵触されたら怪異側にとってまずい理由は以下の通り。


 ・該当地域の人間もしくは、学区の生徒でなかった。

 →条件となるのは特定の地域・学区の生徒。特定の地域とは、『人喰う家』の噂が流布されている地域(?)

 満たさなかったため怪異の目的や在り方に抵触。→出られる代わりにペナルティとして記憶など一部失った。

 

 ・怪異にとって私達が試みた脱出方法は想定外。→出られる代わりにペナルティとして記憶など一部失った。

 

 ・怪異にとって内部の情報を保持した人間が脱出することがまずい→出られる代わりにペナルティとして記憶を失った。


 ・怪異は本来招くべき対象が市立■■学園など特定の学区の生徒およびOBというルールが存在する可能性→私達は条件の範囲外つまり招かれざる客だった→出られる代わりにペナルティとして記憶など一部失った。

 

 あくまでもすべて仮定や憶測に過ぎない、怪異と直接会話したわけじゃないから。そもそも、会話できるか、なんてわからないけれど。

 


 さて、そこから時間は進み、そんな私達は再び調査へ訪れた。市立■■学園などに、よる要請によるものだった。


 

 この時。

 

 ひとりのある男子高校生について、知ることとなる。失踪事件唯一の生存者、市立■■学園の生徒である。


 この際、私達は現場に、踏み入れることはなかった。代わりに生存者を引き入れ本部に。

 


 これが以前までの調査状況。


 そして、再度突入。

 

 この時、またしても、突入した原因が、先輩となっている。


 何故、再度訪れたのかに関しては、今回で最後の最終調査及び処理が目的。


 今回で解決しなかった場合、これ以上は、こちらの対応ができない事情があったから。


 そう、学園側との交渉が平行線となったためだ。


 今後、一切依頼されても、対応しない。これが譲歩した条件だ。人員の喪失は痛手であり、こちらの処置案を受け入れなかったのだから仕方ない。


 

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