第一話
あの日のわたしは、
ちょっとだけ、退屈だった。
「はー……暇」
中学校の部活も終わって、今日は地元の市民体育館に来ていた。
体育館っていっても、何か本格的なスポーツをやるわけでもなくて、
先輩や友達の妹とかと、ゆるく遊んでいただけ。
「すいれんー!これやろー!」
いつも通り、近所の子に声をかけられて、笑ってうなずいた。
けど、ふと目を離したすきに、その子はいつの間にか同級生の子のほうに行ってしまっていた。
「……あれ?」
なんだろう。
わたしが後回しにされたわけじゃないのに、
少しだけ胸がチクリとする。
うわ、うざいとか思ってるの、わたしだけかも。
でも、そう思っている間に——
「すいれんさん、おいでー」
後ろから、声がした。
振り返ると、ソファーみたいな長椅子に何人かが座っていて、
その中に、黒いポニーテールの子がいた。
……誰だっけ、この子。
はじめまして、のはずなのに、なぜか自然に呼ばれた気がして。
困ったように立ち尽くしていると、彼女はスッと手を伸ばしてきた。
「……え?」
言葉を飲み込む間もなく、腕をぐいっと引っ張られる。
そして気づけば、
——わたしはその子の、膝の上に座らされていた。
「ちょ、ちょっと……!私重いよ!?」
「あはは、全然重くないよ?ほら、こんなに軽いじゃん」
当たり前みたいな声で笑う彼女に、わたしは何も言えなかった。
顔が、もう熱くて、真っ赤で。
まわりの視線すら気にならないほど、
その一瞬だけが、世界のすべてだった。
あの瞬間から、
世界がちょっとだけ、おかしくなった気がする。
まだ名前も知らなかったのに。
なのに、どうしてだろう。
もう、あの笑い声を忘れられそうにない——
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