第8話:”魔弾の射手”

時は流れて、2日後。いよいよ第8楽隊の次の仕事の日となった。

「ねね、今日の依頼、どんな依頼だと思う?」

寝起きだというのに、元気な声でアンナが二段ベッドの下の段から、上の段で寝転ぶカノンに話しかける。

「え、えーと、確か人捜し、だったよね。なんかそれが戦闘とか魔法とか、色々の再確認にもなる、らしいけど・・・」

「ハードなのかなぁ。戦闘、魔法、色々あるんなら。」

「でも、まぁきっとうまくいくよ。私たちなら。」

「お、自信たっぷりだねぇ。んじゃ、ぱぱっと着替えて控室にいきますかね!」

そうして2人は制服に着替え、控室へと向かった。控室には、デスクに座るリストと、ソファに座るロベルトとジャンが居た。

「遅かったじゃねぇか。」

「えー。そっちがただ単に速いだけだと思うけど。」

「まぁ確かに・・・僕なんか今日の仕事のことを考えちゃって夜眠れませんでしたからね。」

「ほーほー。みんなそんなに楽しみにしてたんだ、今日の仕事。」

ロベルトが言ったのにリストが反応して言った。どこかニヤニヤとしていて、その手には書類が持たれていた。

「い、いや、楽しみに、ってわけではないと思うんですけど・・・」

「カノンもかたくなっちゃって、肩の力抜いて挑もうよ、ね!」

アンナがカノンの肩をさする。

「で、肝心の仕事の内容なんだけど・・・」

リストがそう言いかけた途端、バタン!と控室の扉があいた。

「失礼!お邪魔するよー!」

「わっ、びっくりした・・・」

アンナが驚いた様子でソファに座る。カノンも静かに、アンナの横に座った。

「お、来たねえ。紹介しよう、この人は・・・」

リストがそう言いかけたのを遮って、革の服・・・軽装の軍服だろうか、ところどころがカバーされるような服を着たその女は大声で話始める。

「あたし、アルル。”アルル・ファランドール・ビゼー”だ!よろしく頼むな!」


「アルル・・・というと、この前リストさんが仰っていた・・・」

「そう。この人が皇国軍唯一の女性兵にして遊撃部隊のエース、アルルさんだ。」

「おう!お前らが第8楽隊か!今日の依頼はよろしく頼むな!」

白い歯を見せてニカッと笑う。どうやら明朗快活な人物のようである。

「んで?依頼の人捜しってのはなんなんだ?」

「お、じゃあ早速本題に入ろうか!」

ジャンが言うとアルルは腕を組みながら控室の中に入り、リストの横に立って話し始めた。

「諸君らは、”伝説の傭兵”と呼ばれる人物をご存じだろうか。」

「い、いえ、あいにくながら・・・」

「アタシも知らなーい。」

「ぼくもハッキリとは・・・」

「俺もだ。もっと具体的に話せ。」

「そう急かすな。我々皇国軍遊撃部隊は、同盟国の戦争や蛮族との抗争、その他様々な戦場に派遣されることが多い。言ってしまえば、雇われ傭兵の形態に近いのだ。もっとも、雇われ傭兵と違う点は給料が出来高制か固定給か、という点だが。」

「軍の内部の話はいい。今回は誰を探せばいいんだ?」

「だから、そう急かすな、青年。その探す対象のことをより深く知ってもらうため、あたしはこうして話しているんだから。」

「ちッ、長ったらしい・・・」

「それで、雇われ傭兵と遊撃部隊とで、コミュニケーションをとることなんかは良くある話でな。むしろコミュニケーションをとれなければ、作戦がうまくいくことはない。戦闘中も休憩中も、どんどんコミュニケーションをとって仲を深めていくわけだ。そんな中、ある日とある蛮族の掃討作戦に向かったあたしと仲良くなった雇われ傭兵が、ある話をあたしにしたんだ。」

「話、というと?」

「それが伝説の傭兵・・・”魔弾の射手”の話だ。」

「まだんの・・・しゃしゅ?」

一同が首を傾げる。アルルはそれを笑って言った。

「ハッハッハッ。そうなるのも仕方ないだろう。なにせこれは噂話の領域を出ない。いわば都市伝説のような、そんなもんなのだからな。」

「いや、そうじゃねえ。魔弾の射手ってのは、実際どんな存在なんだ。」

ジャンが訊ねると、アルルは真剣な面持ちで話し始める。

「魔弾の射手。それは、数々の戦場を渡り歩き、数えきれないほどの武勲をあげ、人知れず去って行った、ひとりの”女傭兵”の異名だ。」

「その傭兵さんも女性の方、なんですね。」

「そう。そして、その女傭兵の名は、”マリア・フライシュッツ”。伝説によると、そんな名前らしい。」

「らしいって・・・まるで、実在しているのかどうかも怪しいみたいじゃないですか。」

今まで黙っていたロベルトが言った。

「そうだ。言ったろう?噂話や都市伝説の領域を出ない、とな。」

「そんなヤツ、どう探せってんだよ。」

「それだよ。そこであたしは第8楽団の君たちと共に、戦場をいくつか渡り歩いて、聞き込みをしつつ、マリアという人物に近づいていけたら、と、そう思っているのだ。」

「せ、戦場を、ですか!?」

カノンが驚く。しかしそれをまたアルルが笑ってまとめる。

「そう怖がるな。君たちの魔法の腕は一流と聞いたがね。それがあれば戦場を渡り歩くなど、造作もない。いざとなれば、このあたしもついているのだから。」

「そ、そんなこと言っても・・・」

「君たちの健闘を祈っている!さあ、準備ができたら早速出発だ!」

アルルは息巻いて部屋を出て行った。第8楽団の4人は全員が困惑したような顔をしている。

「わ、私たち、これから戦場に・・・」

「は、ハードな依頼になりそうだなあ・・・」

「ぼ、僕戦えないって、この前言いましたよね・・・?」

「俺はどうでもいいが・・・戦場とはな。流石に専門外だ。」

そんな4人を取りまとめる様に、リストが話し始めた。

「ま、これも皇楽聖律団の仕事のひとつ。何日かかかるだろうし、魔物や蛮族との戦闘も避けられないだろうけど、そこは君たちの演奏で培ってきたアドリブ力で切り抜けてみてくれ。」

「そ、そう言われると、もう後に引けない・・・」

「・・・ま、やるだけやってみるしかねぇ。準備するぞ。」

ジャンがそう言って立ち上がる。それに続いてカノンらも、「あ、はい!」と立ち上がり、控室を出て行った。

「魔弾の射手・・・見つかるといいね。」

リストがぼそっと、後姿を眺めながらつぶやいた。

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Magica・Musica 芽吹茉衛 @MamoruMebuki888

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