夢のフィールド/三杉 令さま
【原作品タイトル】
『夢のフィールド』
【原作者】
三杉 令さま
----------[リライト文ここから]----------
隣町なら三十分くらいで行けるよ。そんなふうに聞いていたけどバイクでの道のりは全然一瞬だった。車で連れてきてもらうときはもっと時間がかかってるみたいな気がするのに。
バイクを眺めていた
「バイクって気持ちいいですね!」
「晴れてたらもっとよかったんだけどね」
雨はもう霧のように細かくなっていたが、それでもあんなに濡れてしまうものらしい。柊にくっついていた明日香は足元が少し湿った程度で済んだようだった。これならすぐ乾いてしまうだろう。
日が射してきた。何気なく空を見上げた明日香はアッと声を上げた。
「柊さん、あそこ! 虹出てる!」
「――本当だ。虹なんて久しぶりに見たな」
「なんかいいことありそう」
ウキウキと軽い足取りでモールに入った。家族で何度も来ている場所だけど今日はやけに賑やかな気がする。
映画館のフロアに続く細いエスカレーターにぴょんと飛び乗った。振り向けば柊と目があって、えへへと笑い合う。姿勢を戻してステップに立つと明日香は前方を見上げた。いつもなら駆け上がっちゃうところだけど今日はちょっと我慢だ。エスカレーターの動くスピードがゆっくりすぎてもどかしい。
「柊さん、私これ観たい!」
ズラリと並ぶ電子看板のひとつを指さした。最近テレビのCMでよく見かけて気になっていた映画だった。映画館のロビーらしい場所でインタビューされていた人たちはみんな口々に「切なすぎ」「泣きました」と言っていた。ちなみに恋愛もの。
振り仰いだ先で柊は微妙な顔をしていた。
「明日香ちゃんにはちょっと早いんじゃない?」
「どうして!? 私絶対これがいい! ねっいいでしょ!」
「うーん」
柊はしばらく渋っていたが、「お願いお願いお願いお願い」と言い続けていたら最終的には折れてくれた。
映画は期待していた通り最高だった。
一番最高だったのは南の島での再会シーンだ。波打ち際でヒロインが碧い海を見つめているシーン。風に吹かれ、ただ心地好い波音が響くだけでセリフも音楽も何もなかった。しばらくするとヒロインは溜息をつき白い砂浜を歩き出すのだけど、その背中に手が伸ばされて次の瞬間には彼氏からのバックハグが――。
何度思い出してもうっとりするシーンだった。余韻に浸りながらスクリーンを出て、扉脇に貼られていたパネルを眺めた。横からくすっと小さな笑い声が降ってきて明日香は顔を上げた。
「柊さん! 私、やっぱり外国に行きたい!」
「そっか。なら勉強も頑張らないとな」
「頑張る! 英語とか、アフリカ語とか、いっぱい覚えたら行けますよね!」
そうだねとどこか
映画館のフロアを後にした。エスカレーターを降りきると明日香は柊の隣に駆け寄った。柊は思案げに「アフリカか……」と呟いた。
「あのリゾートは本当に行きたくなるよね」
「いつか絶対に行く! あんな夢みたいな場所があるなんて!」
「明日香ちゃんみたいにサッカーやりたい子どもはいるかな? もしかしたら観光客だらけかもしれないよ」
「絶対いるよ! ああいうビーチには可愛い子どもが似合うもん。柊さんも行こうよ! 柊さんは観光客でもいいですよ」
「それもいいな」
それからふたりは最初で最後のデートを楽しんだ。スポーツ用品店を覗いたり、雑貨店を冷やかしたり。フードコートの端に店を構えていたクレープ屋さんがたまらなく魅力的で、明日香は再び「お願いお願い」攻撃を繰り出した。柊に買ってもらったイチゴチョコバナナクレープは期待していた通り最高だった。
----------[ここまで]----------
【原文直リンク】
https://kakuyomu.jp/works/16818622176276612913/episodes/16818622176277037168
【該当話直リンク】
第21話 雨上がりのデート の一部
https://kakuyomu.jp/works/16818622174199934330/episodes/16818622174320946449
【リライト者コメント】
デートシーンとのことで、思い切って明日香ちゃん視点にして綴ってみました。好感度はそれなりに高いけど恋心は控えめな感じー?
任せろ、〝恋に恋する乙女〟は割と得意!(言い切っていいのか笑)
とはいえ本編未読のため重大な解釈違いを起こしてましたら申し訳ありませんっ。「多少ふざけても可」のお言葉に甘えまくっております。(平伏)
歳の差カプ大好き人間ですが、歳の差ものって片方が十代だとどうしても妖しげな香りがしてきちゃう気が……ふたりとも成人してれば普通ですのにね(;´∀`) 私がファンタジー世界を選んで話を展開している理由のひとつでもあります……。(笑)
リライト楽しかったです! ありがとうございましたー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます