第35話「君と咲く季節」

春――

それは毎年、まるで世界がやり直しを始めるように、

淡い光と、透き通る風と、

新しい約束の香りを運んでくる。


桜並木の道。

満開の花びらが、ふわりふわりと舞い落ちる。

学園の門の前、見慣れた景色が、どこか“少しだけ特別”に感じられるのは、

今日が“再会の日”だからだった。


──約束の春。


詩音は、緊張した面持ちで校門をくぐる。

「会えるかな」「みんな元気かな」

そんな胸の高鳴りを抑えきれず、何度も深呼吸する。


千紗は自転車を押しながら、

途中で摘んだ小さな花束を手に持つ。

「何を話そう」と考えるたび、

笑顔がこぼれそうになる。


晴人はギターケースを背負い、

「またこの場所で音を鳴らせるかな」と、

懐かしいベンチを眺める。


純はお気に入りのノートを鞄に入れ、

「新しい詩ができたら、みんなに聴かせたい」と

小さな勇気を胸に抱えていた。


──学園の中庭。


約束の時間、四人がひとつのテーブルに集まる。

「ひさしぶり!」

「みんな、変わってないね」

「いや、ちょっと大人っぽくなったかも?」

照れくさい冗談に、春の空気がやわらかく笑う。


机の上には、

カセットレコーダーと、去年の春に録った“最後の録音”。

今年は新しいテープを用意して、

「せっかくだから、またみんなで録ろうよ」と千紗が提案する。


──再会の記念、“春のカセット”。


詩音がピアノの音を小さく奏でる。

千紗が「またこの場所で会えたこと、すごくうれしい」と語りかける。

晴人は「今度は、みんなで新しい曲を作ろう」と約束し、

純は新しい詩を静かに朗読する。


「君と咲く季節――

どこにいても、

心の奥で春はめぐる

涙のあとに、笑顔があれば

きっと、また会える

花咲く場所で」


録音ボタンがカチリと音を立てる。

今年の春の声も、また一つ

カセットに封じられる。


──桜の木の下で。


会が終わり、四人は校舎の裏手へ歩いていく。

そこは、昔よく秘密の話をした“お気に入りの場所”。


「この先、どんな未来が待ってても――

春が来たら、またここに集まろう」


手と手をつなぎ、

小さな円をつくる。


花びらが舞い、風が吹く。


その静かな誓いが、

いつまでも色褪せず、心の中で響き続けるように――


*挿入歌(希望の春・再会のコーラス)

君と咲く季節がめぐるたび

離れていても 心はそばに

新しい夢も 新しい涙も

ここで分かち合えるから

春の風が包む場所で

また君と、笑いあおう

君と咲く季節に、また逢える


「また来年の春も――」

「絶対、約束ね」


それぞれの“今”を胸に、

それぞれの“これから”へと歩き出す。


春の陽射しが四人をやさしく照らし、

新しい季節の扉を静かに開いた。

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