雨を飼い慣らす

羽入 満月

雨を飼い慣らす

 心の中にも天気はある。

 嬉しければ晴れているとか、悲しかったら雨が降る、とか。

 私の心はいつも真っ暗で、雨がどしゃ降り、私は何もない空間の真ん中でしゃがみこんで泣いている。


 全身が汚れることも厭わずに。


 どしゃ降りの雨の中で叫んでも、雨音に消されてその声は誰にも届かない。

 どれだけ涙を流しても雨に紛れて流されていく。


 全身が濡れることも厭わずに。

 誰にも気にされることもなく。


 そのうち泣くことさえ諦めて、その場に大の字に寝そべってただ全身に雨を感じる。


 いつの間にか手の中に握り込んだ小さな小石は、たぶん『希望』とか『望み』とか『命』などと呼ばれる欠片。


 投げ捨ててしまいたかったけど、その気力すら沸かなかった。

 それを捨ててしまった方が楽なのかもしれないけど、それでも『それ』を捨てられなかった。


 いつまでそうしていたのか、何時までもそうしていても仕方がないと立ち上がる。


 誰にも助けてもらえないなら、自分で進むしかない。


 唯一の友は小さな石ころ。

 手のなかでうんともすんとも言わないこれをただ道しるべにして、道もなければゴールもない、どこにいけばいいのかもわからない道なき道を進むしかない。


 足元の泥濘に足を取られても、沈む足がもつれて転んでも、私はひたすら進むしかない。


 何時かこの手の中の小石が、宝石になり光り輝き出すと信じて。


 それが唯一の道標。









 *グリーンオパールの石言葉

  《心の平穏》

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