第12話 「あいつ」について
雪香は本当に直感だけに頼って生きているようなやつだ。
なぜか強気なくせに、その都度危なっかしい。生き急いでいるように見える時すらある。
響の描いた絵を見てほんの一瞬静かになったかと思えば、
「若葉城公園だわ。きっとここは嶺くんにとっておじいちゃんおばあちゃんとの思い出の場所なのよ…ここ、ここに行ってみましょう!」
とすぐさま場所のあたりをつけたのには正直驚いた。
俺には何が描いてあるのかさえも分からないような、拙い絵だったのだ。
そして性懲りもなく、言葉を発したその瞬間にはもう部屋を出て行こうとする。
「いや、だから落ち着け。お前車は持ってるのか?」
「そんなの持ってないわよ、地下鉄かタクシーでなんとかするわ。」
「警察官だろ、パトカーは使えないのか。」
「…今の私の権限では使えないのよ。」
そう言うと、雪香は下を向いてその白い手をぐっと握りしめた。
なぜ警官であるにも関わらずパトカーを使える権限がないのか。
彼女の悔し気な表情から、どうやら何か事情がありそうだということは見当がつくのだが、今はそこに踏み込むべきではないだろう。
「…車は俺が出す。」
そう言うと、分かりやすく安堵の表情を浮かべながら雪香は顔を上げた。
「…いいの、あなた、午後も診察があるんじゃ…」
「大丈夫だ。これも立派な市から請け負っている仕事の一つだからな、他にも精神科医は勤務している。いかようにでもできる。」
俺はゆっくりと立ち上がると、パソコンを閉じ、車の鍵を確認して言った。
「それに――言っただろう?お前の怒りは、俺が半分持ってやると。」
もう後には引けない。引くつもりもない。
俺が見て見ぬふりをしてきた怒りと恐怖を引きずり出したこいつは多分、
俺がずっと待っていた奴だから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます