00_Introduction: The Beginning

introduction: the beginning - 00


 ——生命とは何か。

 その問いに、私は一度死んでから答えた。


 十二年前、私は手術台の上で再誕した。

 十二人の命と引き換えに、血を浴びて生命の円環へ舞い戻った。


 そして同時に、私の背骨は改竄された。



 生命とは何か。

 中でもとりわけ重要なのは、遺伝子だ。



 では——現象であれば?


 現象とて同じ理屈だ。

 そこに遺伝子があるのなら、それを読み解けば全てがわかる。


 それは最早、科学ではあるまい。

 もしもこんな莫迦げた話を学会で披露したならば——皆、一様に声を揃えてこう言うだろう。


「医学における万能の天才は、陰謀論者に成り下がった!」


 あくまで仮定の話だ。

 もしも現象にも遺伝子があり、それを自在に組み替える技術があったとしたら。


 過去の残響をこの世界に呼び出すこと。

 未来をこの手で彫刻すること。

 少なくとも、私はその術を知っている。


 遺伝子が万物の鍵を握っている、という部分は正しい。しかし、設計図があるだけでは意味がない。

 遺伝子の発現、それによって生物は運用されているとも言い換えられるだろう。


 ならばその発現とはどうやって確認する? 簡単な話だ——DNAを鋳型にコピーされた遺伝子の運び屋、RNAを確認すればいい。



 私は、敢えて仮定した。——現象には遺伝子がある、と。

 そしてその仮定は、世界の一部を改竄した。



「光栄に思うがいい」



 演題の上で両腕を広げる。

 煌々と輝くスポットライトに照らされて、私は言った。



「——その大脳新皮質へ私の蹄跡を刻みつけ、未来永劫語る権利を得たのだから」


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