3.遺書Part2

 私はアラームに音で目を覚ました。夢の内容が脳にこびりついて離れない。

 私はぼやけた脳を起こすために、洗面所へ向かった。一階に降りると同時に、玄関のチャイムが鳴った。

 扉を開けるとそこに立っていたのは、肩まである白い髪に白く透明感のある肌、ルビーのような瞳に長身を携えた細身の男だった。

「あの〜、どちら様で?」

 私が言葉を絞り出すと男は

「初めまして。日高図書館の司書をしております、海野 英司うみの えいじです。」

 と、答えた。司書と名乗る人を私は家に上げた。

「朝早くから来ていただいてありがとうございます。長谷川 優子はせがわ ゆうこと申します。すみません、夫の真治しんじはまだ寝ていて。それで、遺書なのですが、」

 私が話している途中に司書さんが

「支度が終わってからで構いませんよ。」

 と、優しい笑顔で言ってくれた。私は司書さんの言葉に甘え、夫を起こして朝支度を済ませた。

「おまたせしました。」

 私は紅茶を出しながらそう言った。

「いえ、こちらこそ朝早く押しかけてしまいすみません。」

 司書さんは深々と頭を下げた。

「いえいえ、いいんですよ。私も、息子がここまで大切に思われていると分かって嬉しいですし。」

 私達と司書さんは軽い会話を交わした。司書さんは私達の知らない息子のことを聴かせてくれた。本が好きだということは私も知っていたが、ミステリー小説が好きだとは知らなかった。それに、私達親よりもこの司書さんの方が息子に信頼されていることも分かった。

 司書さんは息子がどのようにいじめられていたのか、息子から聴いた範囲で教えてくれた。

 服を着ていたら見えない所に無数の打撲痕、切り傷があること、物がよく無くなること、無視されることなど多岐にわたった。

 私達はそれに気づけなかった自分に、親として、一人間として、気づけずに能天気に過ごしていた自分に不甲斐なさを覚えた。

 最後に司書さんに遺書を渡してその日は解散した。

 しかし、司書さんは最後におかしな事を言った。

「息子さんへの伝言があればお伝えしますよ。」

 私は言っている意味が分からなかった。だが、自然と口に出してしまっていた。

「愛してるよ。今まで気づいてあげられなくてごめんね。」

 司書さんはこの言葉をメモして

「かしこまりました。しっかり伝えておきますね。」

 と、言って帰宅した。

 私も前を向かなければと思い、息子の遺書を押入れの中にしまった。

 次に見る時には一周忌だろうか。はたまた、息子が生きていたと感じたいときだろうか。

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海に救われた(リメイク版) ジャイキンマン @jaikinman

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