1.プロローグ

 僕は今日も教室で僕の住んでいる村唯一の図書館から借りてきた小説を、独りで読んでいる。図書館ならわからない字があっても司書さんが教えてくれるが、ここにはそんな優しい人はいない。先生も同級生も誰も、僕に優しくない。というより、僕は司書さん以外から嫌われているのだろう。

 朝一の教室は僕以外誰も居なくて静かだ。だからこそ安心して本が読める。安心して本を読める空間は今この瞬間の教室と、図書館だけだ。

 三十分ほど経ってから数人が歩いてくる音がした。僕はすぐさま小説を隠して寝たふりをした。

「ゲッ、またバイキンがいるよ。」

「今日も学校に来てんのか。さっさと居なくなればいいのに。」

「おい、聞こえるぞ。」

「そーだそーだ!それに、歯向かってきたらいつもみたいにやればいいだけだしな。」

「確かにな!流石宗助!」

「だろぉ?」

 そんな会話が聞こえてきても、僕は寝たふりをした。今起きたらいじめられるだけだからだ。

 僕は先生に起こされるまでずっと寝たふりを続けた。その間、誰も僕に話しかけてこなかった。

 先生が僕を起こした後はいつも通りだった。先生が教室から出て行った後にプロレスごっこと称して、僕のことを数人が殴る蹴る。質が悪いことに、目立たない腹部や背中、太ももばかり狙ってくる。そして、それを見て笑う数人の声が教室中に響く。

 他の人は「そんなの見えませんよ。」と言わんばかりのスルー。それはそうだ。僕だってそうする。だから、この知らん顔の人達のことはいじめの加害者だとは思わない。

 助けたいかどうかは知らないが、無視をするしか助かる手段のない空間に置かれてしまった可哀想な人達だ。

 僕が誰かに話しかけても「お前は存在しない。」とばかりのスルー。おそらく、関わっていじめの標的に追加されたくないのだろう。

 さらには、僕の私物は神隠しに合いやすいらしくよく無くなる。

 そして、このいじめをしているリーダー的存在が村長の孫っということもあってか、誰も関与しようとしない。

 「集団に属する以上仕方のないことだ。誰かがこのポジションに居ないと、別の人が嫌な思いをする。だから仕方がない。」と、僕は毎日自分に言い聞かせている。

 小学校から中学校になった今でもずっと続くこの日常に慣れてしまった僕は、数年間毎日これを受け入れている。

 先生や親に相談したこともあったが先生は

「みんなに聞いたけど遊んでいるだけだって。だから、明るい気持ちでいればそんなふうに感じなく鳴ると思うわよ。」

 親は

「そんなふうに思っていても実際、遊んでいるだけだっていうケースが多いからねぇ。」

「母さんの言う通りだ。明るい気持ちが大切だぞ。」

 なんて返答しかしない。

 こんなことがあったから、相談しても無駄だと割り切って生活している分、もう悩みはないと思う。それに、数年間もこんな生活をしていたら誰だって慣れる。

 でも、慣れたからといって苦しくないわけじゃない。

 普通にみんなと遊びたいし、普通に生活したい。それに、友達だって欲しい。

 でも、もう無理だ。この村は小さい。小中一貫な分、関係は変わらない。全員、僕がいじめられる立場だと認識してしまっている。

 そんな生活を続けていた中学二年生の春、

(どうやったら解放されるんだろ。もう疲れちゃったよ。この世から居なくなってしまったら解放せれるのかな。)

 と、考えた僕の脳裏にある言葉が浮かんできた。

 それは

「死は救いだ」

 と、いう言葉だった。

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