君と罠

oira

夏休みの始まり

「智仁、早く準備しなさーい。」

母さんの声は明るくよく通る。


俺は桐生智仁(きりゅうともひと)。

普通の高校2年生だ。

今は夏休み。

7月の終わりからは毎年恒例となっている父方のじいちゃんの家への帰省イベントが待っている。

といっても、じいちゃんばあちゃんはもういないのだが。

じいちゃんの家は父の運転する車で半日かかる。

午前8時の現在、今から出発してもじいちゃん家に着く頃にはもう寝る時間だ。

自宅からじいちゃんの家は超がつくほどのド田舎で森と海に囲まれている。

木と水しかない。

親戚は集まるものの同世代の子どもいないうえ、地域に友達もいないため、正直つまらい。

まあそれも今年で終わると考えれば、今までよく我慢したと我ながら思う。


なぜ今年で終わりかって?


それは、来年は高校3年生。受験で勉強に集中するためだ。

そして大学は上京して都内の大学に行き、大学生活をエンジョイすると固く心に決めている。


「はいはい、今行くよぉ。」

俺は約1か月分の荷物を詰めた鞄を片手に自室をあとにする。

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