第24話 君が在りかを音にのみ知る

「じゃあ、みんな、明日からの夏期講習もちゃんと来るように~!夏休み、羽目を外しすぎるなよ!」


担任の声と同時に、椅子が引かれる音が教室中に響いて、ざわつきが広がる。


いよいよ明日から夏休み。

……とはいえ、その前後1週間は夏期講習があって、朝の時間に多少余裕はあるけど、結局学校には来るんだけど。


そして、放課後。


「じゃあ、今日は机を端に寄せて、全体の流れをリズムに合わせてやっていくから!」


槙野先輩の声が部室に響いて、みんなでガタガタと長机を片づける。

狭い部室だけど、机を全部どかすと、書道パフォーマンス用の大きな紙を広げるくらいのスペースはできた。


「1年生の皆は、リズムに合わせて色バケツを出し入れするのと、最後に支柱を立てるのをお願いね」


手順がプリントされた用紙が配られる。

宗谷先生が準備室からメトロノームを持ってきて、全員が筆を持って最初の立ち位置に並ぶ。

花音ちゃんが携帯で音楽を流し始め、カッチカッチとリズムが部屋に響く。


最初に立つのは3年生4人。一気に両端に“影”のパートとなる詩を、重く深い筆致で書き始める。

3年間の「葛藤」「迷い」「挫折」をそこに描く。


そのあと、私を含めた残りのメンバー6人が、リズムの高まりに合わせて躍動感ある速い動きで、今度は「目覚め」「希望」「未来」といった言葉を描き出す。


ところどころに色を差し込んで、詩の中の要となる言葉を印象づける。


そしてラスト。

周囲の詩に呼応するような一文字を、中央に、大筆で力強く揮毫する。

書き終わると同時に、1年生が支柱を上げる。

編集された音楽が、そこでぴたりと終わった。


「……」


全員が無言になる。


先生がぽつりと漏らした。


「これは……ダメだね」


紙を持ち上げた瞬間、文字が全部だらだらと垂れてしまい、周囲の詩も滲んで読めなくなってしまった。


みんな、肩を落とす。


「まあ、最初の合わせなんて、毎回こんなもんじゃん?」


白石先輩が苦笑しながら声をかけてくれた。


改善点を話し合って、それぞれのパートを練習した後、今日は解散となった。

明後日の土曜日には、衣装を着て体育館で本番通りのリハーサルをする予定。


……今日の仕上がりを思い返すと、ちょっとだけ不安。


部室を出て体育館の周りを歩くと、中から靴底が擦れる音と、バスケットボールが床を弾む音が聞こえてきた。


「チカ!フォローが遅い!もっと予測して動け!」


顧問の先生の声が飛んでいる。

バスケ部は、期末前の大会で地区予選を勝ち抜き、県大会進出が決まった。


『3年生はこれが最後の大会だからな。できるだけ一緒に試合ができるように、上を目指したい』


そう、チカが前に言ってたっけ。

最近はレギュラーメンバーだけで朝練してるらしくて、朝の散歩も途中で別れて手を振るだけになった。


今も、体育館の中から顧問の指示に応えるチカの声が聞こえる。

覗き込んだわけじゃないけど、そこにチカがいるってだけで、なんだか背筋が伸びる気がした。


――私も、もっと頑張らなきゃ。

少し息を吸い込んで、明日はもう少し糊を足した重い墨で練習してみよう、と門に向かった。

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