1988年の長崎の空気がそのままパッケージされたような奇跡的な作品に出会えました。
当時の街並みや匂いまでもが圧倒的な解像度で迫ってきて一気に引き込まれてしまいます。
主人公の明人くんは人気女優に顔が似ているせいで女子たちから目をつけられてしまうのですが…
その不器用で繊細な反応がいちいち最高に愛おしいです。
特にダイエーの化粧品売り場で初めてヘアムースを買う時のあの居心地の悪さ。
思春期の男の子の等身大の戸惑いがリアルすぎて読んでいて胸がキュンと締め付けられました。
あの頃のノスタルジーと甘酸っぱい青春の痛みを同時に味わいたいすべての人に絶対おすすめしたい至高の傑作です。
80年代の匂い。当時の長崎の街のいきいきとしたリアル。今、長崎で出島に行って資料館を覗けば、1600年代の事が書かれている展示を見ることができるのと同じように、これは80年代の展示です。もちろん、当時のことを知る人はまだ相当数いるでしょう。ですが、1600年代もまた同じだったのです。
非モテのようで注目を集める主人公は、現代ラノベの典型的非モテ(実はそうではない)コミュ障ではなく、きちんとオリジナリティある人生を生きていて、彼の思考を開陳された我々は「そうか。そう考えるのか」と考えさせられます。どんな人も程度の差はあれ自分の青春時代に足りなかったものを嘆くものでしょう。そう、適度に嘆きながら、適度に自分で選択して明人君は自分の未来に向かっていきます。
そう、十代の頃って色々うまくいかないよね。でも、それもまたいいところなんだよね。後半に行くに従ってそんなふうに思います。そして彼の辿り着いたエンディングで、私達は明人君とともに長い旅を終えるのです。十年後に読み返せば、また長崎の過去がその分だけ遠くに感じられるでしょう。では百年経ったら?
先が気になって一気に読めてしまう作品でした。
本作は恋愛を描く物語というより、“他者から向けられる感情にどう耐えるか”を描いた作品だと感じました。
主人公は「恵まれた外見」を持ちながら、そのこと自体が周囲との関係を歪めています。
向けられる好意は純粋なものとして成立せず、からかいや無自覚な圧力を帯びて届く。
そして重要なのは、それらが明確な悪意として描かれていない点です。
この悪意なき加害”の積み重ねが、作品全体に静かな息苦しさを生んでいるように思いました。
だからこそ彼の「非恋愛主義」は、単なる回避ではなく、関係性の歪みに対する誠実な応答として響きます。恋愛の枠組みに入ることで再び傷つき、傷つけるかもしれない――その予感に対して距離を取る選択には、強い倫理観を感じました。
また、1988年という時代設定も巧みで、無自覚な振る舞いがより自然に成立する環境が、彼の孤立を一層際立たせています。最高。
大きな事件ではなく、小さな違和感の蓄積で人物像を立ち上げていく構成も印象的でした。
恋愛を題材にしながら、実際には「他者と関わることの不均衡さ」に踏み込んだ、誠実で静かな作品だと思います。
この先、彼がどのように他者と距離を取っていくのか、引き続き見届けたいです。
1988年という時代背景が丁寧に描かれ、当時の空気感や文化が鮮やかに蘇るような臨場感がとても魅力的でした。
巨大飛行船との遭遇シーンは静かな日常に突如差し込む非日常として印象深く、主人公のこれからの変化を象徴するような強い導入になっています。
明人の内気さや不器用さが繊細に表現されており、クラスメートとのやり取りから彼の人柄が自然に伝わってきました。
また、長崎という土地の地理・文化・交通事情が物語に厚みを与え、舞台そのものがキャラクターのように存在感を放っています。
全体として、時代性と個人の心情が美しく重なり合い、これからどんな高校生活が始まるのか期待が高まる魅力的な一篇でした。