第56話「一方そのころ、ライラックは②」
冒険者をクビになったライラックは、
戦闘において、ライラックは最高クラスのセンスと実力を有している。
しかし、逆に言おう。
戦闘能力を生かせる仕事は、そう多くない。
一つは、騎士。
貴族などがなるほか、武功をあげたものもなることが出来る。
余談だが、S級冒険者の引退理由の半数は騎士叙勲であるとされている。
安定した仕事であり、一代限りではあるものの貴族にもなれる。
戦闘をする者にとっては、頂点だが、なるまでの道は非常に厳しい。
一方、もう一つの選択肢が冒険者である。
冒険者というのは、言ってしまえば何でも屋だ。
同時に、武力に特化した恩寵を手にしたものが道を踏み外さないようにするための抑止力でもある。
だから、冒険者ギルドをクビになることはそうそうない。
それこそ、犯罪者になりでもしなければ。
「なんでだよ……」
ライラックは、とある都市の収容所に送られていた。
言うまでもなく、〈聖女の英雄〉の元メンバーからの訴えが原因である。
暴行罪が適用され、懲役刑を受けることが決まった。
はっきり言ってしまえば、人としての終わりである。
冒険者に戻ることも難しく、ましてやライラックの望みなど、果たせるはずもない。
「俺は、Sランク冒険者に、英雄に……」
聖女を、ルーチェを救い出す。
そのために、Sランク冒険者になる。
深層に行き、『万能霊薬』を入手して、ルーチェを目覚めさせる。
場合によっては騎士に叙勲され、情報やコネクションを得るのもいいだろう。
ルーチェを目覚めさせたら、その後はどうするか。
話したいことが、山ほどあった。
伝えたい思いも、いくらでもあった。
だから、救わねばならないのだ。
ルーチェに身寄りはモミト以外いない。
そして、モミトには何もできない。
だから、自分がやるしかないし、自分以外にルーチェを救える可能性があるものは存在しないと、ライラックは考えていた。
ちなみに、モミトはすでにSランク冒険者相当の力を得ているのだが――そういった自分に都合の悪いことは忘れている。
否、正確に言えば忘れてしまったことにしている。
というか、ライラックにとってはそれどころではないのも事実だ。
「どうすればいい……」
これまで、ライラックは人生のレールを外れたことはなかった。
戦闘に秀でた恩寵を授かり、スキルを磨き、冒険者としてのし上がり続けた。
しかしそれがゆえに増長し、問題行動を繰り返し、結果として犯罪者として扱われている。
本当にどうしてこうなってしまったのかと、ライラックは考える。
考えても無駄だ。
ライラックにはわからない。
自分の行いが、行動が、原因であると、理解することはできない。
「くそが」
ライラックはどんと、檻の中で拳をたたきつける。
結託と脱走を防ぐため、囚人は例外なく独房に入れられ、スキルの一切を特殊なスキルで封印されている。
だから壁が壊れたりしないし、声すらライラック以外の誰にも届くことはない。
「くそがああああああああああああああああああああ!」
ライラックの絶叫が、あたりに響き渡った。
◇
懲役が始まって、どれくらいがたっただろうか。
刑務所の中であっても、情報が全く入ってこないわけではない。
新聞も、読めなくはないのだ。
「なんだ、これは」
ライラックは、読んでいた新聞を取り落としていた。
それは、記事の内容があまりにも信じがたいものだったことによるもの。
「『黄金病』の原因は、魔人で、それをモミトが倒した?」
『黄金病』が何らかの呪いや、モンスターによるものではないかという推測は、ライラックにもあった。
『黄金病』になるものが限られた地域にしかいないことや、回復魔法が効かないこと、症状が石化に近いことなどが理由である。
だが、問題はそんなことではなく。
「モミトが、倒した?」
あの無能が、出来損ないが、『黄金病』を解決した。
それだけは合ってはいけない。
だってもしも、そうなってしまったら。
聖女の英雄は、ルーチェを救うのは、俺ではなくなってしまう。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
独房の中で、ライラックの叫声が響き渡る。
それを聞くものは、一人としていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます