第43話「非才無能、着せ替え人形になる」
「これは……」
「はい、当店最高ランクの防具となっております。最近入荷しましたオリハルコンを使用し、絶対的な防御力で、お客様をお守りできるかと思います」
「なるほど」
「納得。防御力は素晴らしいと思います」
「そうでしょう。さらにいえば、値段もかなり抑えまして二千万ゴルドです」
「「却下」」
「な、なぜ?」
「だって動きにくいだロ、それ」
リップが口をはさんだ。
「こいつは、軽戦士タイプだ。そういうのは合ってないんだよ」
リップが指さしたのは、俺。
ではなく、俺が身に着けているオリハルコンのフルプレートアーマーである。
「重くてうごけない……」
そう、重すぎるのだ。
多分だが、俺の体重と同じくらいかそれ以上の重さがある。
《筋力強化》などのスキルを持っていない俺にとって、この重さは拷問でしかない。
スキルさえ獲得していればこれでも問題なく使いこなせるのだが――俺には到底できないという話である。
「というかサ、お前ら在庫処分したいだけだロ」
「っ!」
店員が露骨に動揺した表情を浮かべた。
え、そうなの。
「オリハルコンの鎧。それなりに質がいいが、値段が少し安いナ。大方、オリハルコンが最近大量に手に入ったことで浮かれて大量に入手したが、思ったより売れなかったんだロ?そりゃそうだよな、だってそんな高級品、一部の人間しか買えないんだから」
「いいよ、リップ」
「まわりまわって、俺が原因でもあるみたいだし。もう、大丈夫」
「店員さん、俺でも着られるような防具を見繕っていただけませんか?」
「は、はい、ただいま!」
店員はあわてて店の奥に引っ込んでいった。
やがて、いくつかの商品を、抱えて戻ってきた。
おそらくだが、普段は盗難を防ぐためにアイテムボックスなどに入れているのだと思われる。
金庫型のアイテムボックス、頑丈だけど動かせないのが欠点だよな……。
「こちらなどは、いかがでしょうか」
「おお……」
見せられた俺は、思わず感嘆の声を上げる。
それを端的に言うなら、黒いコートだった。
爬虫類の皮で作られたらしく、鱗模様が見える。
手触りは吸い込まれるほどなめらかで、美しかった。
そして驚くほど軽い。
「銘を『黒鱗の外套』と申します。物理攻撃に対しては非常に高い体制を持っていまて、オリハルコンにも劣りません」
「それはすごいな……」
オリハルコンゴーレムとの戦いを思い返していた。
数多の冒険者が殺到していたし、その中にはハンマーや戦斧を携えたパワータイプの戦士も数多くいた。
だがそれでも、ほとんどダメージを与えられていなかった。
それと同程度の物理防御力?
「嘘じゃねえと思うゾ。少なくとも、俺程度の攻撃じゃ壊せないだろうナ」
「半面、魔法攻撃への耐性はほとんどありません。普通の服よりはまし程度でしょうか」
「なるほど、十分ではあるかな」
物理攻撃だけでも防げるなら、むしろいい買い物だろう。
というか、リップ、装備を見ただけでおおよその性能がわかるのか……。
商品の質を見抜く、《目利き》のスキルを取得しているのかもしれない。
「リップ、どう思う?」
「いいんじゃないカ?お前が乗り気なら、俺に反対する理由はないゼ」
「じゃあ、これにするよ……」
見た目も、性能も、俺の好みだ。
そもそも、俺の場合魔法攻撃はマリィで斬ればいいので、警戒すべきは物理攻撃の方なんだよな。
おまけに、軽い。
今もっている服とそん色ない。
「ま、こういう軽い装備は防御力が低いか、性能が極端に尖っているかのどちらかだからナ。いい買い物だと思うゼ?」
「そうだね。お値段は?」
これほどの商品だ。
さぞ値が張るだろうなと思ったのだが――。
「四千万ゴルドになります」
「高級。高いですね……」
オリハルコンの鎧の倍の値段がする。
さっきのオリハルコンの鎧、相当値崩れしてたんだろうな。
マリィは珍しく顔を青ざめさせ、言葉を失う。
ただ、俺からすると。
「「意外と安い」ナ」
「え?」
「ありがとうございます」
おや、リップとハモってしまった。
まあいいか。
予算から足が出るんじゃないかと思っていたのだが、ギリギリ予算内に収まっていた。
もしかすると、予算ギリギリで最も質の良い武具を用意してくれたのかもしれない。
だとすれば、ありがたいことだと思う。
「じゃあ、改めてこれにします」
「かしこまりました。他にも何か購入されますか?」
「じゃあ――」
その後、いくつかの商品を購入し、俺達は店を出た。
「ありがとう、リップ、マリィ。これで、すべての準備が整ったよ」
目指すは三十階層攻略。
そして何より。
「妹を、目覚めさせるときは、近づいている」
◇◇◇
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