2.転生先は再び王女だった






 お姫様が騎士と仲間達と力を合わせて邪悪な白き竜を倒した物語を汝等に語ろう



 手にしているリュートを奏でながら吟遊詩人が朗々と歌い、観衆達は彼の声に酔い痴れる。






 百年後


 アメシスティナ王国に一人の王女が生を受けた。


 王女の名前はシェリアザード。


 つまりユースティアにして園宮 真珠の三度目の転生先という訳だ。


 そんなシェリアザードも十五歳になったのだが、一度目の人生が悲惨だったからなのか、王女という立場に対して良いイメージがなかったりする。


 国の為に政略結婚するのは別に構わない。


 だって王女は国と国民を護る為の駒だから。


 だからこそ高い教育を受けたり、綺麗な洋服を着たり、宝石で身を飾る事が出来るという訳だ。


 そんなシェリアザードも『お前は白竜族の長の番だから大人しく嫁げ』という命令にだけは従いたくなかったりする。


 まぁ、フロノワール王国のユースティア王女がダメンズなトカゲ野郎の番だと公表されているから、シェリアザードの両親が娘に対してそのような命令を出すはずがないし、トカゲ野郎もシェリアザードの前世ことユースティアのミイラの世話に忙しいから大丈夫だと思うが──・・・。


 でも万が一・・・それこそユースティアの転生体がここにいるって分かったら・・・って事もあるから油断出来ない。


 一応神々によってシェリアザードの存在がばれないように認識阻害?


 ステルス?


 転生する際に、シェリアザードはそういう類の魔法をかけて貰っているが、恐怖を抱えたままでは平穏な人生を望めないのも確か。


 シェリアザードが平穏な人生を送る為にも、自分を馬鹿にしていた雌トカゲ共とダメンズなトカゲ野郎を倒さないといけない事は分かっているのだが・・・生と死の間の世界と違って地上からは相手の様子を探る事が出来ないのだ。


 いや。


 一流の占い師なら出来るかも知れないと思うではないだろうか?


 例え彼等であっても白竜族の動向を探るのは難しい。


 白竜族は攻撃だけではなく防御、自分達の拠点が見えないように結界を張った上で幻惑魔法をかけている。


 要するに白竜族はハイエルフ以上に魔法に長けているのだ。


 それ等を無視して動向を探ったり、結界と幻惑魔法を打ち消す事が出来るのは白竜族より上位の存在───それ即ち神のみ。


「どうすればいいのかしら?」


「姫様、お茶とお菓子をお持ちしました」


「ありがとう、ステファニー。私一人では食べきれないから一緒に食べましょうよ」


「はいっ!」


 どれだけ悩んでも結論が出ないから一旦忘れる事にしたシェリアザードは、ステファニーが持ってきてくれた紅茶とマリトッツォを二人で堪能する事にした。



 異世界と言えば中世から近代ヨーロッパ辺りの文化レベルで食文化が発展していないというのがお約束である。


 確かにシェリアザードがユースティアの時はそうだった。


 文化のレベルは───絵画と物語の挿絵は落書きのようなものだったし、物語も単調でつまらなく教義的なものが多かった。


 今でこそ公爵令嬢であるブランシェットのおかげで男同士の恋愛本───BLが広まり本屋でも普通に売っているし読まれるようになっているが、当時はBLなんて市民権がなかったのだ。


 料理だってスパイスを沢山使っていたからなのか濃くて味覚が麻痺するレベルだったし、入浴だって数日に一回だったし・・・・・・。


 中世ヨーロッパと言えば身体を湯で浸した布で拭う事はあっても一生入浴する事はないと思うのではないだろうか?


 それは誤解である。


 シェリアザードがユースティアの時は数日に一回入浴していたのだ。


 一言で言えばシェリアザードがユースティアだった時の文化レベルはペストが広まる前、今は何故か舞台は中世から近代ヨーロッパ辺りなのに、それなりにインフラが整っていて文化が発達しており、ベーコンでレタスな本が市民権を得た昭和の後半から平成の前半だという乙女ゲームのようなものだと言ったところか──・・・。


(私がユースティアだった時にはなかった、日本人にとってはソウルフードとでもいうべき米、味噌、醤油があるって・・・。ユースティアが生きていた時代から最低で二百数十年から三百年以上の時が流れているし、ヨーロッパでも米が栽培されている地域があるのだから、アメシスティナ王国に米とかがあっても不思議ではないのかも知れないわね)


 マリトッツォなんて日本では二千二十年代になってから食べられるようになったのに、何で異世界にそんなものがあるの?という類のツッコミを入れてはいけない。


 これはもう『異世界だから!』という魔法の言葉で無理やり自分を納得させるしかないのだ。


「ねぇ、ステファニー。ラクシャーサ先生はどこにいらっしゃるのかしら?」


「ラクシャーサ様ですか?書庫で調べ物をしていますよ」


「分かったわ」


 ラクシャーサ先生に聞きたい事があるシェリアザードはマリトッツォを堪能した後、書庫に向かった。






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