第5話 ダンジョン農業、始めました。野菜と一緒に、スキルも育つ?



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「まさか畑まであるなんて、聞いてないんだけど……!」


地下2階の奥。美咲は、信じられないものを目の前にしていた。


そこはまるで異世界の植物園だった。

LEDライトのような光源が天井から降り注ぎ、棚の上や小さな畑スペースには、見たこともない野菜や果物が整然と育っていた。



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【観察結果】(美咲メモより)


✦《フレッシュキャロット》:βカロテン含有量が通常の3倍。お肌に良し。

✦《ネムネムレタス》:不眠症に効く。サラダに最適。

✦《バーストトマト》:火を通すと旨味爆発。水分が多くジューシー。



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「うち、農業始まっちゃったんだけど……家庭菜園ってレベルじゃないのよ……」


とはいえ、見ていると手がうずうずしてくる。


「ちょっとだけ……ちょっとだけ収穫してみようかしら」



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✦ スキル発動:「下ごしらえ短縮 Lv1」


朝ドロップしたスキルが自然と発動し、

ハサミのようなガーデン用具を手にすると、野菜がスパスパ収穫されていく。


「うおっ!? 手が勝手に……! しかも切り口きれい~!」


あっという間にカゴ一杯分の野菜が収穫できた。



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「……これ、冷蔵庫が足りないかも」


それだけじゃない。収穫した野菜の横には、



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【ドロップ品】

✦《保存スキル:鮮度キープ Lv1》

効果:冷蔵庫の中身の鮮度が2~3日長持ちするようになる。



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「うそ……もう、主婦の味方すぎて泣きそうなんだけど……!!」



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✦ 家事にも影響が……?


その日、美咲が作ったのは野菜たっぷりのミネストローネ。

たっぷり煮込んでも、トマトの味が飛ばない。


「なんか……今日のスープ、すごく旨味あるな」


「レストランの味って感じ!」


家族はすっかり舌鼓。しかもスキル効果で、残りは3日間は劣化なし。



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夕食後、真人がふとつぶやいた。


「最近、なんか……料理も洗濯も掃除も、なんかスムーズになってるよな?」


「えっ!? そ、そう……かしら?」


内心ひやひやしながらも、美咲は笑ってごまかす。


「やっぱり主婦の努力と経験よ~♪」


(あぶない……そろそろごまかしも限界くるかも……)



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✦ ダンジョン農業・後日談


収穫した野菜は、料理に使ってもなお余る。


ふと、美咲の脳裏にひとつの考えがよぎった。



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「……ちょっとだけ、加工して保存食にしておこうかしら」



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煮込んだトマトソース、ピクルス、キャロットジャム。

野菜本来の味が濃いため、市販よりずっと美味しい仕上がりになった。



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その夜、美咲はこっそり一人、棚に並んだ瓶詰め保存食を見てつぶやく。


「なんか……ちょっとした非常食の棚みたい」



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だけど、それは“もしもの時”じゃなく、

「ちょっとしたピンチを、ラクに切り抜ける暮らし」をつくるための準備。



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✦ そしてまた一つ、ドロップ品


夜、もふまるがもぞもぞしていた足元を掘ると——

そこにあったのは、金色の封筒。


中には、文字が浮かび上がる。



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【スキル進化のお知らせ】

《下ごしらえ短縮 Lv1》→《家事効率化:調理部門 Lv2》


効果:3品同時調理が可能に。焼く・煮る・蒸すなどの火加減調整を自動補助。



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「……もう、主婦専用の成長システムじゃん……!!」


美咲は天を仰いだ。



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