猫又娘の大冒険 8

8


 まのたちはジャックに早く席に着くよう促され、慌てて席に着きました。その様子をフロージュ女王は無感動に見ていました。

 テーブルはともかく、椅子も大きい人用に作られていたので、ジャックがブツクサ文句を言いながらも、フクとユキミのために子供用の椅子を用意してくれました。

「ジャックは食べないの?」

「オレはお呼ばれされていないし、給仕だしな」

 口は悪く、威張り散らかしているジャックですが、きちんと仕事はするようです。

 とはいえ、ジャックとて小人。二人分の椅子を持ってくるのも大変そうでしたので、まのが手伝ってあげることにしました。

「お前、気がきくな」

 テーブル近くで手持ち無沙汰で落ち着きなくしている二人を見ながら、ジャックが言います。

「もっとぼーっとしているヤツかと思っていたけど、礼儀作法もしっかりしているしな」

「作法は猫の国で教わったから──って、褒めてくれてるのよね?」

 ふん、とそっぽを向いてジャックは厨房へと向かいます。まのもその後をついて行こうとしますが、

「椅子はそこの部屋にある。食事は運べるから、そっちを持って行ってくれ」

 と指示を出し、一人さっさと厨房へ向かいました。

 まのも二人を残しておくのは少し心配だったので、二人分の椅子を手にし、食堂へ戻ります。すると二人ともやっぱり心細かったのか、

「まの、どこに行ってたっほい」

「良かった、戻ってきたわ……なのさ」

 と、安堵と非難の混じった言葉で迎えられました。

 二人にごめんなさいと謝り、椅子に腰掛けます。フクとユキミもまのが持ってきてくれた椅子に座り食事を待ちます。

「待っている間、何かお話した?」

「女王様と? とんでもない!」

 しー、っとフクが慌ててユキミの口を押さえます。無言を貫いていますが、すぐそばに女王様はいるのです。

「あっ、とんでもないと言ったのは、畏れ多いということです……」

 ユキミの弁解も女王様の耳には届いているのかどうか分かりません。というのも女王様は無言なだけでなく、部屋の薄暗さも手伝ってどういう表情をしているのか分からないからです。

 少し気まずい雰囲気を破ったのは、ジャックの配膳カートの音でした。ガラガラと車輪が壊れているのか、少しうるさい音を立てています。

「お待たせしました」

 ジャックはまず、女王様の元に置いてあったグラスに液体を注ぎます。その液体が水なのかアルコールの類なのかは分かりませんでしたが。

 次いで、料理の乗った皿を慎重に女王様の前に並べていきます。丁寧な手際でした。

「お前たちは勝手に取れ」

 ジャックの配膳は女王様限定のものらしく、まのたちにはサービスが提供されませんでした。何となくジャックという人物が分かってきたまのは苦笑するに留めましたが、フクとユキミは女王様の御前というのも忘れて、ぶつぶつ文句を言いながら料理皿を取ります。

 それを遠巻きで見ていたジャックが一通り料理が全員に行き渡ったのを確認すると、

「お待たせいたしました。それでは、ごゆるりとお食事をお楽しみください」

 と言い残し、自身は食堂から出ていきました。

「あいつ、逃げたなっほい」

「逃げた?」

「料理を見るっほい」

 テーブルに載っているのは、形からお魚と思われる崩れた焼き魚、焦げたパン、萎びたサラダなどなど……

「調理した自分が逃げる出来栄えなのよ……なのさ」

「ま、まあお味は美味しいかもしれないじゃない」

 まのがフォローすると、

「では、おあがりなさい」

 それまで沈黙を守っていたフロージュ女王が、その口を開いたのでした。

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