第25話 リカルドの誤算 Side リカルド
「私で良ければ」
そう言って涙を流したミラベルを見てリカルドはすぐに後悔した。
リカルドはミラベルが自分のことを特別に想っていることに気づいていた。しかし自分がマリエッタを想っている限りミラベルの気持ちに応えることはできない。それなのに、ミラベルの好意を利用する形で求婚してしまったのだ。
しかもそれはいずれマリエッタを自分の手に入れるための計画の一環でしかない。
ミラベルに求婚した時点でリカルドはルドヴィックとマリエッタの結婚を止めるのも相手を変えるのも難しいと考えていた。しかしたとえ結婚したとしても離婚すればいい話である。
ルドヴィックとマリエッタを別れさせ、その後マリエッタと結婚するためには彼らが婚姻中にマリエッタの気持ちを得なければならない。もちろん不貞行為をするつもりはなかった。マリエッタとは何も後ろ暗いところなく結ばれたかったから。
しかしマリエッタの気持ちを得るためにはなるべく近くにいる必要がある。そしてリカルドの存在を意識してもらうにはどうしたらいいか。その結論がミラベルとの結婚だった。
ミラベルと結婚すれば既婚者のリカルドに対してルドヴィックが新居の立ち入りを禁止することはできなくなるだろう。そして今まで通りにマリエッタのそばにいれば彼女の気持ちを得られる可能性が上がる。
そこにミラベルに対する気遣いはなかった。
それほどまでにリカルドはこれからの自分とマリエッタのことで頭がいっぱいだったのである。
ミラベルだって今から相手を探してもきっと碌な相手は見つからないはず。変な男と結婚しないためにも自分が結婚相手になればいいんだ。
そんな言い訳をしながらした求婚は、結局ミラベルの涙でリカルドに後味の悪い思いを残した。
しかし言ってしまった言葉は戻らない。
リカルドはミラベルに対する後ろめたさを誤魔化すかのように良き婚約者を演じ続けた。贈り物をたくさん贈りデートにも誘う。ミラベルのことを最優先して何よりも大事な存在だと行動で示した。
だから、結婚式が終わった時にはこれでやっと安心できると思ったものだ。
ミラベルの置かれた立場を考えれば彼女の方から結婚を止めることはないとわかっていても、思いもしないことが起こるかもしれないのが現実。その心配がなくなった。
それに今までミラベルを最優先してきたがこれからはマリエッタへ割く時間も増やせるだろう。
そんなことを思っていたリカルドはすっかり忘れていたのだ。結婚したからにはそれ相応の義務が生じることを。
「白い結婚でいたい」
そう告げた時のミラベルの顔を忘れることはできないだろう。瞳は驚きに見開かれショックを受けたのか顔色は青白かった。胸元で握りしめられた拳は小さく震え、力がこもっているのか指先は白く色を変えている。
「私は……ちゃんとした夫婦になりたいと思うわ」
どちらかというと周りの意見を尊重してあまり自分の思いを前面に出すことの少ないミラベルが珍しくはっきりと言った。
「……ごめん」
それ以外にどう答えられただろう。
リカルドの心情がどうであれ、結婚したからにはミラベルを抱きしめて夫婦の義務を成した方が良かったのかもしれない。しかしそういう点では潔癖なところのあるリカルドは自分の気持ちに嘘はつけなかった。
妻として抱くのはマリエッタだけ。
だからどれだけ申し訳なく思っても頑として自分の意思を曲げなかった。子どものことも、最初からミラベルと長く夫婦でいるつもりのないリカルドにとっては先送りしたい話題でもあったから。
誤魔化したままリカルドはミラベルに背を向けてベッドへ寝転んだ。
だからその時ミラベルが何を思ったのかリカルドにはわからない。拒んだ自分の背中をどんな思いで見つめていたのか。
そして最後までミラベルの気持ちを問うことなく、リカルドは別れの時を迎えることになる。
「離婚して欲しい」
ルドヴィックとマリエッタの離婚が成立してミラベルへと告げた言葉。ルドヴィックに対して日々増えていくマリエッタの愚痴を聞き、さりげなく別れを勧めてやっと勝ち取ったチャンスを活かすために。
リカルドは躊躇うことなくその言葉を口にしたのだった。
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