第六話・百合妖怪女……数体を召喚転移させる

「百合妖怪?」

 食堂で食後のコーヒーを飲みながら、湯琉 ユリは向かい側の席に座っている、前髪で片目が隠れた所員に訊ねた。


 訊ねられたグループ責任者の所員は、納豆をかき混ぜながら答える。

「そう、妖怪の中の百合属性です……トンネルの次の使用権を架空人物トンネルにするか【妖怪トンネル】にするかでジャンケンで争って、うちらの妖怪グループが使用権利を獲得しました」

「ふ~ん、よくわからないけれど……架空人物と妖怪って、どこかかぶっていなーい? 女体化した孫悟空って、架空人物? 妖怪人物?」


 納豆にネギと砂糖を混ぜながら、妖怪グループの責任者は少し言葉を詰まらせる。

「うっ、そのあやふやな領域は気づかなかったフリをして素通りしてください……それを追求していったら、未確認生物U M Aとかの領域にも、深入りしないといけなくなりますから」


「わかった、で……誰を召喚転移するのーっ」

 納豆ご飯を食べながら、妖怪グループの責任者がプリントアウトした用紙を、ユリの前に差し出す。

「所長のパソコンに、リストを送信しても良かったんですが……所長はそういうの嫌いでしょう」

「うん、楽しすぎるのは嫌いだ……脳が腐るーっ」


 ユリは、妖怪の名称に横線が引かれたリスト用紙を眺める。

「雪女郎と、女吸血鬼のカーミラのところが線で消されているけれど? どうして、百合属性高いでしょーう?」

「研究所内を凍結させられたり、百合女たちを見境無く襲ったら困りますから……今回は除外しました」


「この、子泣き娘というのも消されているけれど?」

「背中におぶさってきて、泣きわめく娘ですよ……迷惑でしょう」


「この、豆狸娘というのは? どんな妖怪?」

「わーっ、わーっ!」

 妖怪グループの責任者は、慌ててボールペンで豆狸娘の名前に激しく線を引いた。

「忘れてください! 検索してはダメです! 線を引いてない百合妖怪を数体、召喚転移させますから……比較的、安全な百合妖怪を」


 同じテーブルにいたマツリが、コーヒーを飲みながら妖怪グループの責任者に訊ねた。

「バックベアードは? フランケンシュタインは?」

「召喚しません……第一、フランケシュタインは創造した博士の名前で、正式にはフランシュタインの怪物っていうんです……そんな怪物、女でも制御できません」

「じゃあ、キョンシーは?」

「…………」

 妖怪グループの責任者は、なぜか口をつぐんだ。


  ◇◇◇◇◇◇


 百合妖怪を召喚転移する日がやって来た。

 妖怪トンネルに配線を変えた、トンネルが回転をはじめて稲妻が走り、いつものように霧が漂う。

 霧の中から声が聞こえてきた。

「わらわを、呼んだのは誰じゃ? 偉大なラー神とナイルの恵みに栄光あれ」

 霧の中から、体に包帯を巻いた女性が現れた、随所に肌が露出している。

 トンネルから出てきた包帯コスプレ女性は、高貴な雰囲気を漂わせながら周囲を見回す。

「わらわを、ミイラにしたアヌビス神はいないようだな……おっ、美味そうな女がおる」

 ユリが包帯コスプレ女に訊ねる。

「もしかして、百合ミイラ?」

「当たりじゃ、わらわは女好き過ぎて死んだナイルの王妃じゃ……復活して生身にもどって、夜な夜な女を求めて徘徊しておった……ここは、女が多そうな楽園じゃな」

 百合ミイラは、ヨダレを手の甲で拭った。

 エロい百合ミイラに続いて、二体目の百合妖怪が召喚転移された。


 少しカエルのような生臭い匂いが漂い、霧の中からピシャピシャと、歩いてくる水掻きがある足が見えて、田舎なまりの声が聞こえた。

「あんれぇ、ここどこだぁ……遠野じゃないべな?」

 頭に丸い皿、背中に亀の甲羅がついた。

 赤い河童娘が現れた……一見すると、裸にも見える、口は普通の人間の口だ。


 赤い百合河童は、妖怪グループ責任者が差し出したキュウリを嬉しそうに食べる。

 妖怪グループ責任者は、百合河童の乳首の無い乳房と、のっぺりとした人形のような股間を眺めて、赤い百合河童に訊ねた。


「どうして、体が赤いの?」

「河童にも、いろいろいるべ……緑色だけじゃないべ」

「体、触ってみてもいい?」

「どうぞ、どうぞ」

 妖怪グループの責任者が、乳首が無い胸と、人形のような股間を撫でると河童娘は。

「あふっ」と声を出した。

 それを見て百合ミイラが言った。

「わらわの体も、触ってもらいたいものだ……包帯の隙間から指を入れて」


 百合ミイラ、百合河童に続いて最後の百合妖怪が召喚転移される。

 最初に霧の中から飛び出してきたのは、黄色い道士服を着た少女だった。

 手にはお金を繋げた剣と、ベルを持っている。

 道士少女が言った。

「ここは、どこだ? 百合キョンシー僵屍を故郷に帰す旅の途中だが? 霧を抜けたら妙な場所に迷い込んでしまった」

 オプションの道士にユリが質問する。

「百合キョンシーはどこ?」

「見たいのか……注意しないと襲われるぞ、あたしがキョンシーの百合性欲を押さえている……百合が強すぎて成仏できないキョンシーだからな……そんなに見たかったら見せてやろう」


 道士がベルを鳴らして、演舞をすると霧の中から両腕を前に伸ばした女性キョンシーが、ピョンピョンと跳ねながら現れた。

 顔に貼られているお札をユリが少しめくると、百合キョンシーは両目を閉じていた。

 床に胡座あぐらをかいた道士が言った。

「今は言葉をしゃべらない札を額に貼ってある、あたしが操って百合行為をさせるコトができる……今のコイツは、あたしの操り人形だ……とりあえず、何か食べるモノをくれ腹が減った」


 こうして、百合ミイラ、百合河童、百合キョンシーが百合島2に召喚転移した。

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