今、おわりのはじまりの刻がきた。

ネコの額ほど度量が狭い

密林に立つ

第1話 深き森の少女


 朱き尾を引く禍星が近づく年


 セキアイの森を進む人影がある。その影は巨大な森の中では、その影はひどく小さく見えるが、その足取りは躊躇のような物は感じられない。


 森は見たことのない木々や天で絡み合うツルやツタ。日中でも薄い闇が辺りを覆っている。

 先ほどから降り続ける雨は、肌に張り付き、不快指数は半端じゃないのに、進む影は歩みを止めなかった。

「森を育むとはいえ、嫌な雨だな!」

 その声は、驚くほどの幼さを感じさせている。


 見れば、まだまだ幼さが見て取れる少女であった。

 少女は深い森を迷うことなく進んでいる。その足取りからは、ちゃんと目的地があっての移動なのは明らかであった。


 しばらく進むと、少女の目の前に大きな祠が現れた。その祠は森の持つ闇より、更に深い闇に包まれていた。それは気配というより、匂いといえる物であった。


 少女は祠に入ると、身に纏っていた布を脱ぎ捨て、幾つかの液体を頭から被った。


 極彩色の液体をその身に纏った少女は更に奥に進むと、大きな台座に腰を下ろすと、口の中で何かを唱え始めた。

 その小さかった声は、徐々に大きくなり、遂には悲鳴かと思える程になった。


“Fuu・・、Hiiii・・、Haaa・・・・”


 その呪は、祠の中に大きく広がった。


 その呪文が不意に止めと、少女は目の前にある椀を手に取った。その椀には緑色の液体が入っており、液体を口に含むと、一気に飲み込んだ。


 見た目からは想像出来ない、甘美な匂いが立ち上がり、少女は目を見開いた。


「行かねばならぬな。まぁいいわ。久しぶりにアイツの顔を見るのも悪くないな」

 少女は見た目以上に落ち着いた物言いである。


 少女はゆっくり立ち上がると歩き出し、祠の入口で着ていた、布を着けると外に出た。

 本降りになっていた雨が、少女を彩っていた極彩色を洗い流していた。


 少女の赤い髪だけが緑に彩られた森の中で光り輝いていた。

「森が、星が騒がしくなっている」

 少女は森を後にした。


◇◇◇◇◇


 それから3日後、少女は小さな飛行機のシートに身を沈めていた。

 あの時とは見違えるスーツ姿は、一瞬別人かと思うが、赤い髪が同じ少女である事を物語っている。


「今回はヤバいめに合うかも知れないから、着いてこなくても良かったのに」

 少女は隣りに座る青年に声をかけた。


 青年は決心を言葉にした。

「巫女が森を離れるとき、そこがどこであれ、私は着いていきます」

 なんとも堅苦しい決意である。


「友人に会いに行くだけだ。お前はいつも物騒だな」

「そう言いながらいつもは」


 ミランダの新しい旅が始まった。


 その旅が世界を未曽有の厄災をもたらす旅になるとは、五大奇人の一人であるミランダにも想像出来ない物であった。


 ミランダはシートに身を沈め、眠りについた。

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