再会、そして……(LOML The Beginning)
コアラvsラッコ
第1話 未練?
それは偶然だった。
いや、必然と言う名の運命だったのかも知れない。
元カレだった
彼は駅前で待ち合わせをしているのか、時計を気にしながら、キョロキョロと辺りを見回していた。
そんな彼の視線と私の視線が重なる。
一瞬時間が止まり、まるで私達だけが昔に戻っかのような錯覚を受ける。
走馬灯のように蘇る記憶。
付き合い始めた楽しかった高校時代。
そこから本当は同じ大学に行くはずだったのに、彼が体調を崩したせいで入試に失敗し、別々の大学に進学することになり、結局それが些細な行き違いの切っ掛けになってしまった。
今考えれば私にも落ち度はあった。
でも、やっぱり大学を落ちた事で卑屈になってしまい、私から距離を取るようになったあの時の態度は今でも酷いと思っている。
思っているけど……彼以上に好きになれる人は居なかったのも事実だった。
そんな彼が目の前に、しかも以前とは見違えるような格好。
大学に入ってもオシャレなんて気にしなかった野暮ったい格好だったのに、見ただけで分かるブランド物の高級スーツ。気にして確認していた時計は、知り合いが自慢していたスイスの高級腕時計と同じように見えた。
ハッキリ言って見違えてしまった。
見た目だってそうだ。
高校の時から代わり映えのしなかった髪形も変わっていた。
それはうちの大学にも良く居る女子にモテる為に、雰囲気イケメンを装うだけのオシャレで柔かい感じとは真逆な感じ。
でも今の彼は短髪だけど清潔感があってそれでいてどことなくワイルド。
チャラい形ではなく出来る大人な男と言った雰囲気を醸し出している。
きっと私と別れた後色々と努力したのだろう。
それこそもしかしたら私とよりを戻す為に……。
なんて言うのは流石に自意識過剰過ぎるけど。
本当に同世代とは思えないほど雰囲気があった。
だから目が合った瞬間。
私は目が離せなくなったのに対して、彼がそそくさと目を逸らしたのはショックだった。
おそらく向こうも気付いた筈だ。
私も以前よりは少し派手目にはなったけど、見てわからないほど様変わりした覚えはない。
まあ、あんな別れ方だったから気まずいのも理解は出来るけど、やっぱり私から距離を取ろうとするかのような、いや寧ろ酷くなって、私そのものがいないかのように扱われるのは理不尽だ。
たって私の方は、それこそ別れてからも気にしていたのに。
私は蘇った淡い思い出を台無しにしてくれた康介の態度が気に入らずに、思わず自分から声を掛けてしまった。
でも、もしかしたらそれは燻っていた未練というやつが、そうさせたのかも知れない。
私は彼の事が誰よりも好きだったから……。
「久しぶりね康介」
私は思うところがありつつも努めて平静に話しかけてみた。
けれど康介は私の声が聞こえなかったかのように振り向こうとしない。
そんなあからさまな態度にムカついた私は、意地でもこちらを向かせるべく肩を叩いて、もう一度名前を呼んだ。
「康介。ひさしぶり」
流石に大声で叫ぶわけにもいかないので、それなりに音量は抑えたが、騒音なんかにかき消されない程の大きさの声。
現に見知らぬ別の人が振り向くくらいの。
「……ああ、久しぶり」
諦めたかのような浮かない顔付きで振り返る康介。昔の感覚でつい思った事を口にしてしまう。
「なによ、無視すること無いでしょう」
「いや、お前が俺に用があるとは思わなかったからな。別人のことかと」
白々しい誤魔化し。
でも、少しは私も大人になった。
わざわざ嘘を指摘することはせず、穏便に笑って話を進める。
「その、康介が見違えてたからビックリしちゃって。思わず声を掛けちゃった」
これは嘘偽りない本音。
今の康介なら私の隣でも恥ずかしく無い。
「そうか。まあ俺も色々あったからな。なんというかお前は……相変わらずな感じだな」
私を品定めするように眺めてそう言った。
康介は照れ屋なので素直に褒める事が出来ないのは知っている。
そんな所だけは昔から変わっていないようだ。
つまり、康介は昔と変わらず私が可愛いと言いたいのだろう。
でも私達は思春期で恥じらう中高生ではないのだから素直に褒めて欲しい。
実際私は時代遅れだとは思うけど、大学のミスコンで準グランプリを取ったこともある。今更可愛いと言われた所で嬉しいけど、過剰に照れたりなんてしないのだから。
「ありがとう。でも女性は素直に言ってくれたほうが嬉しいときだってあるものよ」
だから私は康介のためを思い助言をする。
見た目は合格点になったけど、中身が変わってなければ減点になるからだ。
「?……えっと、まあそうかもな」
痛い所を指摘してしまったのかバツの悪そうな顔をする。これも昔と変わっていない。
あー康介って、やむぱり私が居ないとダメなやつだ。折角見た目は良くなったのに中身が伴わないと意味が無いじゃない。
そうと決まれば今の私には正式に付き合っている男は居ない。
康介とよりを戻したところで文句を言う奴もいないだろうし。
「康介。良かったらそこの喫茶店で少し……」
話をしない。そう言いかけた所で知らない声が邪魔をする。
「お待たせコウちん。ホント遅れてスィマせん」
そう言って馴れ馴れしくて康介に近づいてきた女。
そいつは誰がどう見ても地雷クサイ、黒縁メガネで、長い黒髪はボサボサ。アニメぽっいキャラクタのスウェットなんて着てる色気なんて皆無の陰キャなキモオタ女子だった。
「良いよ。事情はメッセージ受け取ってたし、俺もさっきまで会議だったからな……まあ、それでも遅かったから、変な奴らに絡まれていないか心配したぞ」
「うむ。コウちんは相変わらず過保護すぎ……」
まるで私の存在を忘れたかのように話し始める二人。
どう見ても私より格下なキモ女を優先する康介に苛立ちを覚えてしまう。
たださすがに子供ではないので喚き散らしたりはせず、冷静に康介に尋ねた。
「あの康介。この人は?」
「ああ、俺の彼女だよ」
笑顔で答える康介。
とてもじゃないが信じられなかった。
どう見ても釣り合っていない。
今の康介は見た目、雰囲気共に間違いなくイケてる。かたや彼女の方はと言うと野暮ったくてダサいキモ女。
――――騙されているのかも知れない。
普通ならあんなダサい女を彼女と笑って紹介出来るはずが無い。
いや、もしかしたら私と別れたせいで可愛い娘に対してコンプレックスを抱くようになってしまったのかも。
そんな色々な考えが頭に浮かぶ。
そして出た結論はこんな地雷女から康介を救ってあげないとだった。
まったく、本当に私が居ないとダメな奴なんだから。
私がやれやれと話の続きをしようとすると。
「じゃあこれで」
二人は私の事を無視してとっとと行こうとしていた。
「あっ、ちょっと待ってよ」
そう呼びかけるが二人はそそくさとその場から立ち去った。
ただ立ち去る康介の目は私に何かを訴えかけているようだった。
きっとあの女は逆らうとヤバい事を平気でするメンヘラ女なのだろう。だから康介は何も言えなかったし、あの女を彼女と言うしかなかったんだ。
まさか、そんな事になっているなんて……知らなければきっと何もすることも無かった。
でも、知ってしまった以上。
私は康介を助けないといけない。
だって康介を見て改めて思い知ったから。
今まで一番好きだったのは康介だったのだと。
そう、だからこれは運命。
神様が彼を助けるようにと引き合わせてくれたんだ。そし私が彼を助ければきっと幸せな再スタートが切れるはずだ。
『待っててね康介。必ず助けてあげるから』
私は見えなくなっていく康介達を見送りながら心のなかで決意したのだった。
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