辺鄙な町に蓋をして
子律
辺鄙な町に蓋をして
私の配信で出会った人
顔も名前も知らないけれど
どこか懐かして惹かれていた
何となく付き合う気がしていた
交際期間は1年と2ヶ月だったかな
色んな所に連れて行ってくれたし
色んな経験を一緒にさせてくれた
思い出は記憶から溢れる程に沢山あった
電車の終点でバスに乗り換えて1時間半くらい
バス停からも少し離れた二階建てのアパート
もうちょっと都会でも良かったんじゃないの
幼い私にはあの町の良さあまり分からなかったよ
ちょうど一年前
小型冷蔵庫くらいのゲージの中
今まで触れたことがなかった小さな命
もこちゃんの額のイナズマは私が見つけたんだよ
もこちゃんと遊んでる時間の方が長い日もあった
だってすぐパソコンかベッドに向かうじゃない
私よりネットの世界の方が面白いんだろうな
少しずつ気持ちが心の奥の扉へ進んでいった
5時間もLINEが帰ってこなくてアプリを開く
女友達の配信で偶然アイコンを見つけて
私の連絡よりこの子の配信の方が優先なのね
そこで心の奥の扉は閉ざされた
学校の舞台2日目に一緒に車で帰って楽しかった
最近電話しなくなったよねと問うた答えは
「だってお前タイミング悪いんだもん笑」だった
その言葉で心の奥の扉には鍵がかけられた
別れてよかった
あんなクズを好きになった私が馬鹿だったよ
親の同意があったとはいえ犯罪だったし
どこにも誠実さなんて欠片も落ちてなかった
でも、違ったよね
誰よりも私を愛してくれて
沢山色んな話し合いもしてくれて
小さな気遣いをいつもしてくれた
好きな所は優しさで溢れてたよ
柔らかい空気も一緒に私は愛してた
運命の人なのかなって浮かれたことだって
共に歩む未来を描いたことだってあった
私も同じだったみたいね
優しさだけじゃダメって気付いちゃって
友達や学校に注力出来てないって気付いちゃって
心を閉ざしたのは
アルバムの半分を占めてた思い出の写真たち
iPhoneは削除から30日で自動で消えちゃう
別れてすぐ削除して頭からも消した
削除済みアルバムからも消えたのに
そっちの町行きの電車に毎日乗ってるせいで
そっちのXのポストが流れてくるせいで
そっちの兎の待受が残ってるせいで
大嫌いになったのにたまに蘇ってくる
だからもう全部削除しようと思う
電車は無理だけど
あのアカウントも
兎の待受設定も
そして辺鄙な町に蓋をする
少しずつ忘れていくから
思い出や気持ちと一緒に置いて
少しずつ離れていくから
アパートのパスワードいい加減変えなよ
あの4桁じゃ私も忘れられないから
もう全部消しちゃうからね
そっちも消しておくんだよ
辺鄙な町に蓋をして 子律 @kor_itu-o
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