第29話 「黒」の魔法少女の誕生③ 影法師ノ世界
「一体あれはなんだったんだ.....」
あの後俺は元のあの道に倒れていた。
そこには血溜まりも化け物もやっぱり居なくて俺の服もちゃんと元の母さんのお下がりだった。
でも.....マスクと靴に付いていた赤い点々とした染みはあれが夢でないことを証明していた。
今は実家の自室で布団にくるまりながらあのトラウマになりそうな記憶と向き合っている。
「なにか分かりそうなのはマスクと靴と.....これか.....」
ポケットから取り出したのは強く握ってたからか折り曲がってしまっている1枚のトランプだった。縁には化け物を切断したから付いてしまったであろう赤黒い染みと強烈な匂いが染み込んでいて本当だったら今すぐ捨てたい。が、もしかしたら紗良の死に何らかの関係があるかもしれない。なら捨てることなど到底出来なかった。
「魔装展開───」
あの時のように再度トランプに書かれている文字を復唱してみる。
「───」
なにも起きなかった。
「服の変わる条件はなんだ.....?この意味不明な言葉を唱えたらあの時は服が変わった。でも今やったらなにも反応がない.....違いは.....」
巡る思考に幾つかの候補が浮かぶ。
一つ目は襲われてるかどうか.....あの時はあの化け物に襲われてたからできたのかもしれない.....
二つ目は俺の精神状態.....あの時は化け物に襲われてて気が気じゃなかった、大分参ってたからという可能性があるもある。
三つ目は謎の第三者の干渉.....あの時このトランプを投げた誰かがあの現場を見ていた筈だ。その謎の誰かがあの猫みたいに俺の姿を変えたのかも.....(猫本人の可能性もあるけど.....)
で、あんまり考えたくない四つ目.....全部幻覚の可能性.....今の俺は紗良がいなくなってしまったことと自分が急に女になってしまったことで大分ショックを受けてる。だからそのストレスから生み出した幻覚という可能性ゼロじゃない.....
「もし幻覚ならいっそ全部夢だったことにしてくれないかな.....」
紗良の死も全部.....
でも驚いた.....こんなにも自分が冷静に物事を考えられるとは思わなかった。これも体が変わった影響だったりするんだろうか.....?
「あ、そういえば.....」
化け物との逃走劇.....いや別に逃走はしてないな.....まぁあの時のこととかで疑問になっていることがあの化け物の死体と血溜まりはどこにいったんだということだ。
だけど少しだけ予想はついてる。あの時いたのは確かに同じ道に見えたけどもしかしたらすごく似た別の世界なんじゃないかって.....世界が赤く見えたのも俺の目じゃなくて世界の方がおかしかった可能性がある。
まぁ机上の空論をいくら言っても進展はないんだけど.....
「あれ、増えてる.....」
いつの間にかスマホにあの道の写真の後にもう1枚写真が増えていた。
もちろん俺に撮った覚えはないし、この場所に行ったことすらない.....だけど前の道と違って今回写真に写ってた場所は私もよく知る場所であった。
数年前に職員の1人が作業中機材の点検ミスで不幸な死を遂げたとしばらくの間ニュースでも散々言われてた廃工場だった。
ニュースではここまでだったがこの事故の後ここで働く人間全員に不幸なことが色々起こりみんな辞めるか死んでしまったというこの町でも有名ないわく付きの場所だ。
「.....怖い.....」
この写真を送ったのはあの猫かそれともまた別の誰かか.....でもあのなんの変哲もない道ですらあんな目に合ったんだ.....いわく付きの場所ともなればあの首なし女の子なんかよりもっとやばいのがいるかもしれない。
怖くて震えが止まらない.....さっきまで冷静に考えてた癖にまた同じ目にあうかもしれないと思うと怖くて怖くて涙が止まらない。
でも.....
「なにも知れない方が怖い.....」
唯一の幼馴染で親友だったんだ.....あいつの死について何も知れないことのほうがあの化け物共よりも余っ程怖い。
あの猫の言葉は嘘かもしれない。でも、もしかしたらの可能性が少しでもあるなら俺は、私は──命を賭けられる。
〜〜〜
肌寒い風が吹いていてかなり着込んできたが全然寒い。絶妙な曇り空がその建物をより恐怖の城へと仕立てあげていた。
「早速来てしまった.....」
湧き上がった感情に任せて勢いで来てしまったけどめちゃくちゃ怖い.....
俺は紗良程じゃなかったが怖いものが好きじゃない.....紗良ビビりようを見て笑っていたがあれは紗良の驚き具合が凄まじくて逆に怖くなくなるだけで一人でいる今、その恐怖心は勿論全て俺一人にのしかかる訳で.....
「.....帰りたい」
猛烈に帰りたい.....万年エースの帰宅部を舐めないで頂きたい。今から帰ろうと思えば30分もかからずに帰れる。
「でも.....行かないとダメだよな」
言葉と意思に反して足は後ろ歩きで家の方に向かって行こうとしていたが.....
「なにをしているんだい?さっさっと行きたまえよ」
「うわぁ!おっとととと」
後ろから声が聞こえたかと思うと背中を押され廃工場の敷地内へと足を踏み入れた。
「危ないだろ!」
流石に直ぐに後ろに向かって怒鳴ったが、
「いない.....?というかここは.....」
私を突き飛ばしてきた奴はそこにはおらず踏みとどまって次に顔を上げた時には世界が
「⬛︎⬛︎▪️◼️███◼️◼️⬛︎███!」
「⬛︎███◼️███⬛︎██████⬛︎?」
しかも驚いたことに工場には人?がいた。
作業服を着た真っ黒い影法師のような人型の何かが電子音のような声のようななんとも言えない言語を発してこちらを見ている。
仕事の真似事でもしているのか影は全員ダンボールを抱えていて中には多分金属部品でも入ってるんじゃないだろうか?金属同士のぶつかる高い音が聞こえる。
「あ、あのごめんなさい!」
あの首なし女の子と違って影たちはすぐには襲って来なかった廃工場を出ようと回れ右をして敷地と公道を隔てる門へと向かう。
「⬛︎◼️◼️███⬛︎◼️◼️⬛︎?」
「ひゃッ.....嘘でしょ.....?」
足早に走り去ろうとしたその時影の内の一人が私の肩を掴んだ。
門の方にはさっきの影共とは違うあからさまに敵意を持ってそうな髪を振り乱した長身の骨みたいに細い女いた。
「止めてくれたの?ありがとう.....じゃあ私は来れで.....痛ッ!」
とりあえずこの影だらけの場所にはいたくないので止めてくれた影にお礼を言って工場側に立ち去ろうとしたが影はより強く俺の肩を掴んだ。
影の顔に当たる部分がニィイと歪んだ。
「きゃあ!」
影に押し倒される。影は私の服の胸元を掴むと引きちぎろうとでもしているのか仕切りに横に動かしてる。
「ど、どけッ!キモイ!クソっ重い!」
影の腕なり足なりを蹴ったりするがまるで動かない。
元もあまり力は強くなかったとはいえこの体はさらに力が弱い。化け物の拘束から抜け出すのは至難の業だった。
「⬛︎◼️███⬛︎◼️███⬛︎◼️███⬛︎◼️」
「⬛︎███⬛︎◼️◼️███!」
「███⬛︎◼️◼️■⬛︎⬛︎███?」
周りにいた影も野次馬の如く拘束されている私を取り囲んで集まっていく。
「どきやがれっ!クソっ!キモイキモイキモイキモイ!」
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ.....あっ.....
暴れた拍子にポケットに入れていた1枚のカードが落ちる。
脳内に浮かぶのはたった一つの言葉、
「【魔装展開】!離れろ!」
あのときのように服がコスプレじみた服に変わる。感情に任せた怒りの言葉と同時に身体から何かが抜け落ち影たちはまとめて5mくらい吹っ飛ばされる。
「やった成功した.....ははっこれでお前ら全員ぶっ潰してやる!こっち来んな!」
・・・・
「⬛︎⬛︎◼️███⬛︎███⬛︎?」
「⬛︎⬛︎◼️███⬛︎◼️◼️?」
「⬛︎███⬛︎◼️◼️███⬛︎███⬛︎?」
「あれ.....?」
なにも起きなかった。
前回と状況は一緒、唯違うとすればさっきのときは何か身体から抜け落ちる感覚があったけど今回はなかったことぐらいだろうか.....
「こうなったら.....逃げろぉ!」
元より私に残された道は1つしかなかった。唯ひたすら逃げることだ。
後ろから影共の足音が聞こえてくる。
「追ってくんなぁ!うわぁ!っと.....」
影共に叫んだ瞬間さっきはなかった抜け落ちる感覚が急に来て転びそうになるもギリギリで踏みとどまる。
「⬛︎◼️◼️◼️⬛︎███⬛︎◼️◼️!?」
「⬛︎███⬛︎■███⬛︎███◼️!?」
「⬛︎███⬛︎■███⬛︎███⬛︎⬛︎■!?」
再度走り出そうとすると先頭を走っていた影の一人が転んでそこからドミノ倒しのように後ろの影が突っかかって全員転んだ。
「よく分からないけどラッキー!」
俺は脇目も振らず工場内へと駆け込んだ。
〜〜〜
「⬛︎◼️◼️⬛︎⬛︎███⬛︎◼️███?」
「⬛︎⬛︎◼️◼️███⬛︎⬛︎██████」
「■■⬛︎⬛︎◼️███◼️◼️!」
あいつらの声が聞こえる。多分俺を探してるな.....
「はぁ.....はぁ.....」
なんか体力の消耗が激しいな.....そんな走ってないのに.....元から体力ないだろって話は聞かないからな.....
「通り過ぎたか.....?」
「ガチャ───⬛︎◼️◼️⬛︎███⬛︎⬛︎?ガチャ───⬛︎◼️███⬛︎⬛︎███◼️?ガチャ──███⬛︎⬛︎◼️██████⬛︎.....」
な!?扉を一個づつ開けていってる?
まずいこのままだとバレるッ.....
ガチャ──
「⬛︎⬛︎◼️◼️⬛︎⬛︎███.....?」
「おりゃぁああ!」
扉の後ろに隠れてた俺はボロい金属製の折りたたみ椅子で影の頭を殴った。
化け物だから効かないとかはなくて割とあっさり黒い影は倒れた。
「多分死んでは.....ないよな」
倒れている影を睨みながら他の影に見つからないように俺は部屋から出た。
「にしても赤いな.....」
窓から外を見ると空は真っ赤、その光を反射して町自体が赤く見える。まるで異世界にでも紛れ込んだみたいだ。
「どうすれば戻れるんだろう」
前回はあの首なしを倒して気を失ったら戻ってた。
トリガーは化け物を殺すこと?.....分からない。
「.....ん?」
足音を出さないように歩いていた俺だったがあるひとつの扉の前で立ち止まった。なぜならこの扉から僅かに白い光が漏れ出てるからだった。
「⬛︎⬛︎███◼️⬛︎███⬛︎!」
「◼️⬛︎███⬛︎███⬛︎⬛︎⬛︎◼️███!」
「げっ.....中を確認してる暇はないか.....」
後ろから慌てたように大きな声を出す影たちがこちらに走ってくるのが見える。
躊躇いながらもドアノブを回して光の中に飛び込んだ。
「まぶっ.....あれ?戻った.....良かったぁ.....」
扉の向こう側は赤くなくてドアから影たちが入ってる来るような気配もない。今回も助かったんだと思うと嬉し涙が出そうだった。
「⬛︎◼️◼️⬛︎⬛︎███⬛︎███」
「──え」
気がついた時にはもう遅かった。影のような棘が俺の影から俺の背中に突きつけられていて動けなくなっていた。
「や、やめて.....」
涙目になりながら言うと影からもう一本棘が伸びて地面に文字を書いた。
「『部屋を出て向かい側の部屋に入れ』?」
あいつらに文字が書けたことにびっくりもしたがその行為になにか意味があるんだろうか?でもここで死ぬよりはマシだ.....
私は部屋を出て向かい側の扉に手をかけた。今も尚棘は私の背中を今か今かと貫こうとしている。
「ったく酷ぇことしやがる.....」
「え.....?」
扉の向こうから声が聞こえた。しかも大分幼い女の子のもの.....もしかして影は扉の向こう側の子を襲おうと.....?
「だ、ダメだ.....こんなこと今すぐ.....痛ッ」
引き返そうとすると影に背中を軽くつつかれる。お前の命は俺の手の中にあるんだぞとでも言いたげに.....
「ごめんなさい.....」
軋みの酷い扉を開ける。
そこに居たのは声の通りの幼い女の子だった。多分小学生だと思う。まだ小さいけど大きくなったら美人になるんだろうなって分かるくらいには可愛い子だった。
「.....えーっとこんにちは.....?」
「ま〜た魔法少女か.....で、なんだ?次はいじめ相談か?魔物退治か?」
.....?この子は何言ってるんだ?
女の子から発された言葉は見た目に反して何処か投げやりで粗暴で荒々しかった。
しかも魔法少女?あぁあの歳ならまだそういうのも信じてる歳だっけ.....?いや、私の時はもう信じてなかったな〇〇ライダーとか.....痛ッ.....
また地面に文字が書いてあった。そこには『助けを求めろ』と書いてあった。
その行為がこの影にどんな利をもたらすのかは分からないでも私は自分が助かるためにその命令に従った。
「すいませんが.....助けてもらえません?」
その時影が女の子に向かって飛んでいくのが見えた。俺はこの一瞬だけ解放されたのだ。
だから逃げた──実質的な人殺しという行為をやってしまって取り返しがつかないし紗良なら絶対許しはしないだろう。
でも俺は逃げた一心不乱に逃げ続けた。あの女の子が殺されて次に殺られるのは俺だ。
いや、殺されるならマシなのかもしれないさっきあの影共は俺を押し倒して服を破こうとしたそれが指すことは一つ.....考えるだけでも怖気が走る。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて───
「やっと追いついたぞクソガキィ.....」
「へ.....?」
俺の目の前にいたのはさっきの女の子だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
読んで頂きありがとうございます!
少し早足の回想で結構内容も詰めてしまいましたがご了承くださいm(_ _)m💦
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