天才暴君女王の育て方
外人だけどラノベが好き
第1話
女王『クロエ・アルカディア』
彼女の異名は悪魔だった。
人間として生まれた彼女が、どうして悪魔などという異名を得たのか。
反抗する国々を征服し、数多の貴族や王族の首を吊り、利権を主張する教会を焼き払い、裏切り者は剥製にして地下室に飾った。
そのような残酷な統治で世界を征服したが、その後、部下や市民たちの大規模な反乱によって、結局殺されてしまう。
それゆえの異名が、悪魔。
人々にとって彼女は、人間よりも悪魔に近い存在だったのだ。
だが、このゲームの外から来たオレだけは知っていた。
彼女が決して悪魔ではないという事実を。
誰にも理解されず、誰からも愛されなかった、たった一人の少女に過ぎないということを。
今回の人生のクロエは、悪魔になんてならない。
オレが彼女を理解する唯一の人間になるからだ。
オレの名前は吉岡国親。
このゲームの外から来た、この世界の救世主だった。
*****
三人の騎士が木剣を手に、オレに近づいてくる。
そしてオレの手にも、同じように木剣が握られていた。
オレは止まることなく動き続け、騎士たちが困るような位置へと移動する。
位置取りさえ良ければ、一対多の戦いでも勝てる。
オレの考えを証明するように、迫ってくる三人の騎士は、結局オレの剣先にあっけなく倒れてしまう。
その光景をバルコニーから見守っていた父上が、拍手を送った。
「見事だ、ヘルマン。数日前とは大違いだな」
家の当主の称賛に続き、オレを褒める騎士たち。
「お見事です、若様」
「腕を上げられましたな」
それは事実だ。オレの剣術は一週間前を境に強くなった。一週間前に、オレが前世を思い出したからだ。
オレの名前は吉岡国親。二十四歳、剣道選手。それがオレの前世だった。
十六歳になるまでは前世なんてものが存在するとは想像もしていなかったが、ある日落馬して地面に頭を打ち付け、気を失った後、前世の夢を見てしまったのだ。
それで気づいたこと。
前世のオレは強かった。世界でも敵なしと言われるほどだった。前世で生きていた世界、つまり地球には、あらゆる剣術の奥義を集めて作られた剣道という武術があり、オレはその剣道の達人だったのだ。
「言ってみろ、息子よ。どうしてそんな短期間で急に強くなれたのだ? 我々に隠れて修行でもしたというのか?」
父上が言ったが、素直に教えられることではなかった。前世の経験がオレの頭の中に入ってきて、その経験を活かして強くなったという事実は、だ。
そして二つ目に気づいたこと。
それは、ここがゲームの世界だったということ。それもオレが数千時間もプレイしたゲームの中の……。
ただ、問題はこのゲームが乙女ゲームのようなものではなく、まっとうな本物の戦争ゲームだということだった。
『アルカディア戦記』。開発者が戦国時代に影響を大きく受けたのか、ことあるごとにすぐ戦争に突入する内容のゲームだった。
そんなゲームの中に入り込んでしまった。それが何を意味するのか?
オレも戦争に出なければならない。
しかも、有力な騎士の家の次男として生まれたのだから、なおさらだ。
噂をすれば影、とでも言うべきか、すぐに戦争が起こった。
オレの主君、クロエ・アルカディアは、その妹であるディアナ・アルカディアと家督を争い、戦争を始めた。
クロエはこのゲームの主人公だった。ゲームの名前が『アルカディア戦記』なのだから、当然の話だ。
そしてクロエは戦争の天才だった。常に不利な状況を覆し、ゲーム内で名高い戦争の名手たちに引けを取らない能力を見せつけ、勝利してきた。
そんな主君が率いる戦争だ。安心して参加できるだろう。万が一にも全滅して虚しく死ぬなんてことはないだろうからな。
あとはオレ自身を信じることだ。
剣道で培ったオレの実力を発揮するのだ。
そして待ちに待ったDデイ。
とある森で、クロエ軍とディアナ軍が対峙した。
オレと家中の者たちは、本陣から百メートルほど離れた場所に陣を構えていた。
オレの視線は主君へと向かった。ゲームの中ではものすごく美しかったが、実際はどうなのか気になった。
しかし、よく見えなかった。第一に距離が遠いこと、第二に主君が兜を被っていて顔が見えなかったからだ。
「ヘルマン、初陣だな」
「はい、父上」
「緊張しているか?」
「思ったより平気です」
「主君のことが気になるか?」
見ていたことがバレたか。銀色の鎧をまとった父上がオレに尋ねる。
「正直、気になります」
「具体的に何が気になる?」
「護衛が少なくありませんか。増やした方が良いかと」
すると父上は大きな声で笑った。
「なぜ笑われるのですか?」
「まあ、見ていろ」
ついに両軍の距離が縮まった。
特徴的な音を立てる矢が空を舞った。
「あれは……」
「鏑矢(かぶらや)だ。戦の始まりを意味する」
そして鳴り響く太鼓の音。
クロエが命じると、数千の兵士たちが敵に向かって駆けた。
それからようやく、オレは父上が何を言いたかったのかを悟った。
「全軍! 我に続け!」
そう叫びながら敵陣へ突撃する彼女の背には、後光が差していた。
「美しい……」
長いランスを手に突撃する彼女の姿は、とんでもなく美しかった。異名のような悪魔ではなく、天から舞い降りた天使と言ってもいいほどに。
そうだ。彼女に必要なのは護衛ではなかった。オレたちが彼女を守るのではなく、彼女がオレたちを守る守護神だったからだ。
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