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 大道寺と要は八田達が去った後も殴り合いを続けていた。大道寺は緩急つけて攻撃を繰り出すも全ていなされる。その行動に大道寺は違和感を覚えていた。

「まさかこいつ・・・」

大道寺は右腕でパンチを放つ・・・と見せかけて左腕でアッパーを繰り出した。だがそれも待ってましたと言わんばかりに受け止められる。それを見て大道寺は確信した。

「お前、ちょっと先が見えるな」

それを言われて要は不敵な笑みを浮かべた。

「察しが良いな。流石元エリート職員だ」

「場数踏んでりゃあそんくらい分かる」

そう言って今度は回し蹴りを繰り出した。しかしそれも受け止められる。

「だが、本当に怖いのはお前のそのフィジカルだ」

 要の妖霊術は未来予知、しいて言うなら相手の行動を最大4秒先まで読むことが出来るものである。戦いはコンマ1秒が生死を決める世界である。そんな中では4秒という数字も相当なアドバンテージとなる。だが大道寺が恐れているのはどちらかというと彼の妖霊術というよりは彼の持つ肉体だ。実際要自身1日3時間の筋力トレーニングをルーティンとしている。それに加えて日霊連での訓練も他の職員よりハードなものを選んでいるため、身体能力は空挺時代より衰えを見せていない。その鋼鉄のような要の肉体を見て大道寺は本能的に恐怖心を抱いたのだ。

「怖いなら、さっさとその女と投降したらどうだ?」

「あいにく、俺にはやることがあるんでね。お断りするぜ!」

そう言い放ち大道寺は要の顔面にストレートパンチを見舞った。だがそれもすんでで受け止められる。

「所詮は図体だけの男か、これほど単調な奴なら大した脅威でもないだろうに」

要はそうつぶやくと大道寺の拳を捻り、胸部に掌底を打ち込んだ。その衝撃で大道寺は吹き飛ばされてしまう。

「ふん、俺たちに目をつけられたことを後悔するんだな」

そう言い放って要は拳銃を取り出した。だがそれと同時にある違和感を覚えた。

「・・・待てよ、さっきの女って」

違和感に気づいた頃には時すでに遅しであった。隈田は上空から羽を発射して要の腕を狙った。要はとっさに羽を掴む。

「金属製の羽か。それも相当殺傷力が強い。あんたもただものじゃねえな」

要は上空の隈田に言い放った。

「彼とはこの後セックスする予定なの。邪魔しないでもらえる?」

予想外の単語が出てきたことに若干驚きながらも要は彼女の羽を投げ返した。

「お熱いねぇ、お二人さん。そういう仲だったのかい」

すると大道寺が立ち上がっていた。彼女に気を取られており、要はそれに気づけなかった。よく見ると大道寺は九字の外獅子印を組んでいる。

「少し本気出さねえとな」


 社用車の中で上坂は先程の出来頃について考え込んでいた。彼自身人材教育課の人間から研修を受けたことは覚えている。しかし彼自身は研修期間に人材教育課に赴いたことは無い。日霊連の慣例として研修期間は一定期間各部署に数か月配属され、そこで経験を積むのだがその中に人材教育課は無かった。

「上坂、さっきの戦いが見られなくて残念だったな」

上坂の様子を察してか、八田が彼に声をかけた。

「いえ。それより、俺研修の時人材教育課に行ったことなかったんですけど、あそこってどういう部署なんですか?」

「そうか、そろそろお前も知っておかないとだめだな」

八田は意を決した様子で語り出した。

「人材教育課は確かに職員の教育を主とする部署だ。現にお前も研修の時村田さんから教育を受けたって言ってたよな」

「はい」

「でもあそこの裏の役割は日霊連に歯向かう者の排除だ。現に大道寺も俺達に歯向かったことで抹殺対象ってことにされたんだろう」

「そうだったんですか。でもそれならどうしてあんな名前に」

「あの部署にはこういうモットーがある、「歯向かう者には、鉄槌を持って教育せよ」ってな」

「・・・拳で分からせる、っていう感じですか?」

「ああそれだ」

それを聞いて上坂はまたしても高校時代の強豪校のおっかない顧問を思い出した。強い所の指導者は決まって性格が苛烈な者ばかりなのだ。

「それじゃあ、組織の暗部を見せないために研修には行かせないっていうことだったんですか」

「いや、どちらかというと足手纏いはいらないからっていうことだろ。現にあそこにいる人はその気になれば俺たちと七尾さんの班全員で襲い掛かっても片手だけで瞬殺できるくらいだ」

「え、そんなに強いんですか」

「強いってものさしじゃ図れない。あれは化け物のいる部署だ」

そう返したのは運転中の東野だった。

「さっきの要って男は中途採用で4年前に入ってきた。元々第一空挺団で身体能力も相当なやつだ」

第一空挺団、上坂にも自衛官の友人が何人かいるがあそこはやばい奴の集まりだと常々言われている。

「でもそんな要でも北海道支部の中では一番弱い。まあ伸びしろはあるって上野課長が言ってたからひょっとしたら後から化ける奴かも知れないけどな」

その言葉を聞いて上坂は戦慄を覚えた。先程感じ取った要の殺気は相当なものだった。しかもあの大道寺と互角の勝負をしている。そんな人物が部署の中で最弱・・・。

「・・・世界って、俺が思っていたより広いんですね」

「ん?ま、まあそうだな。でも安心しろ。余程馬鹿な事しない限り俺たちと戦うことは無いから。それこそ大道寺みたいにな」

東野はそう言った。だが上坂はまだ腑に落ちない様子だ。

「東野代理、そもそもあの大道寺って男は何をやらかしてこうなったんですか?確かに規約違反の薬物を使用してはいましたが、そもそも自分はあの男が何者なのか分からないんです」

「・・・そうか、あいつについて話さないとな」

すると八田のスマートフォンに着信が来た。

「お疲れさまです・・・え、三好課長?一体どういう・・・はい、今戻っている途中ですが・・・わかりました、そのまま向かいます」

八田は電話を切ると東野に話しかけた。

「すまん、開発部からお呼びがかかった。研究所に頼む」

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