(6)

 通称「コマシ」というのは……主人公チームの軽薄そうな感じのイケメンの男だ。「祟り屋」のメンバーだが、呪術的な能力は全く無い。

 じゃあ、何で、そんなキャラが主人公チームに居るかと言えば……「祟り屋・大阪難波店」の主人公達は、単に「人殺しの手段として呪殺を使う」ような連中じゃない。

 あくまでも、ターゲットが死ぬより嫌な目に……それこそ自分で死の望むような目に……遭うような「呪い」をかけるのが仕事だ。

 かける呪いの種類はターゲットにより違う。

 例えば、その為の情報収集の一貫として……あるいは、呪いをかけるのは、ターゲット自身じゃなくて、ターゲットの身近な誰かだったりする場合になんかに、女性を誘惑しなければならない事は、当然のように有る。

 その為の要員が、「コマシ」と呼ばれるメンバーだ。もちろん、「コマシ」とは「スケコマシ」の略だ。

 しかし……。

「あ……あの……杉山さんは悪役をりたいって言われてたと聞いてるんですが……え……えっと……」

「ああ、すまん、ちょっと、行き違いが有ったようやの。ワイは……映画なんかを作る時に、そうやな……主人公にとっての敵の事は『悪役』やのうて『かたき役』って呼んで、主人公でも世間一般で『悪』と思われるような事をやる奴の事は『悪役』って呼んどるんや。ワイにとっては『かたき役』と『悪役』は別物や」

 えっ?あ……でも……。

「ああ、ワイが初めて撮った映画のスタッフさん達が、そういう言い方をしとったんで、その影響や。ややこしゅうて、すまんな」

「は……はい……」

「で、ワイは、今、女性関係のスキャンダルに巻き込まれとるやろ。だから、そのイメージを逆手に取って、女さん達が観たら、ちょっとムカツく位の女たらしの役をった方が面白うなると思うてな」

「あ……あ……な……なるほど……」

 駄目だ……緊張して……お世辞も出て来ない。あははは……。

「で、悪役やのうてかたき役やけど……9割方内定しとってな……」

 杉山さんは、何か、本当にうれしそうな感じで、そう続けた。

 あ……あ……ああ、マジで……日本一のコメディアンが、俺の漫画に惚れ込んでくれてるのか?

「あとは、そっちが、あの契約でOKって言ってくれれば、本決りや……」

 そう言って、杉山さんが出したのは……70代で善玉・悪玉のどっちもれる名優と……いや、俺のイメージでは「この人を主役にした方がいいんじゃないか?」って感じのクール系の美人女優の名前だった。

「すいません、お茶をお持ちしました」

 その時、会議室のドアの向こうから声がした。

 杉山さんのマネージャーらしき人が、立ち上がり、慌てたように会議室のドアを開け……。

「そうや……君んとこの子供さんの同級生が、このセンセの息子さんじゃなかったか?」

 杉山さんは、会議室に入って来た、40ぐらいの女性社員に、そう声をかけた。

「えっ?」

「こちらが、漫画家の安房清二センセや……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る