(5)
俺は、東京から出張してきた担当編集と一緒に、日本最大級の芸能事務所の1つの本社にやって来ていた。
ああ……ネクタイに背広なんて格好も久し振りだ。
受け付けを済ませ、指定された階までエレベーターで上がり……。
緊張してる。
膝がガクガクになってる。
ここに来るまでは、作画の参考にしようと、周囲の様子を観察するつもりだったが……緊張で、そんな余裕なんて無い。
ああ……。
多分、もし、この時の様子を漫画にする事が有っても……背景は真っ白になるな……。
あ……背景は全部アシスタントにやらせてた……ま、いっか。
そして、会議室に入ると……。
う……うわああああ……。
叫びそうになった。
俺達の世代にとっての大スターが……。
「おう、あんたが『祟り屋』の作者のセンセか?よう来てくれたな。まぁ、座ってくれや」
「は……は……はい……はい……」
「そいで……早速やけど、出版社さんの方に送っといた契約書の内容で問題は無いか?」
「は……」
「あ、そうや、飲み物は、お茶とコーヒー、どっちがいい?」
「あ……えっと、お茶で……」
「あ、そっか、すまんけど……」
「はい?」
杉山さんは、横に座ってたマネージャーさんらしい人に、声をかける。
「すまんけど、庶務さんに、一番いい玉露とお茶菓子を持って来てくれるように伝えてもらえるか?」
「わかりました」
マネージャーさんらしき人は、社内用らしいガラケーでどこかに連絡。
「じゃあ、あの契約書の内容で、ほぼOKなら、早速やけど、センセに映画用のワイの衣装をデザインしてもらいたいんやけど……」
「あ……もちろんです、やらせていただき……」
「もちろん、衣装のデザインの代金は、著作権料なんかとは別口や。何か、マンガとかを映画にする時は、原作者さんにお金が入らんとか聞いとってなぁ……。ワイも何とかせにゃあかんと思うとったのや」
「あ……そ……それは……どうも……ありが……」
「そう固くならんといてや……」
「は……はい……」
「じゃあ、
……。
…………。
たった一言……それも「えっ?」が脳裏に受かぶまでに……結構な時間がかかった。
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