クレアボイヤンス

ロックホッパー

 

クレアボイヤンス(透視)

                          -修.


 「あー、もう昼近そうだな。そろそろ起きないと・・・。」

 俺は大学1年生。今日はサークルで仲良くなった芽依ちゃんと二人で食事に行くことになっている。待ち合わせは夕方なので余裕があると思って、昨晩はネトゲをやり過ぎた。

 「うーん、11時か。良く寝た。」

 俺はベッドの隣のラックに置いているデジタル時計の数字を見ながらつぶやいた。

 「メガネ、メガネ・・・」

 俺はテーブルからメガネを取り、掛けようとして気づいた。

 「なんで時刻が見えたんだろう・・・」

 ネトゲのやり過ぎのせいか、高校くらいから視力がどんどん落ちてきてメガネなしには家の中さえ歩けないようになっている。先週は遊びに行ったついでに視力回復に御利益があるという神社に参ったくらいだ。

 「いっぱい寝たからかな、あるいは神社の御利益か・・・」

 なぜか今日はメガネがいらないようだ。俺は手短に身支度をし、近くのコンビニに遅いブランチを買い出しに行くことにした。


 そしてアパートから通りに出た瞬間、あまりの光景に絶句し、その場に立ち止まってしまった。なんと通りにいる人々がみんな素っ裸だったのだ。

 「そんなばかな。」

 しばらく唖然としていたが、だんだん冷静を取り戻してきた俺は深呼吸をして、再度周りを見渡してみた。どうやら俺には、通常の服を来た姿に加えて、下着や裸も同時に見えているようだ。いや、さらには通常は見えない背中側、内臓や骨格までも見えていた。

 「透視能力ということか・・・」


 すごい能力ではあるが、そんなことは関係なく腹は減る。最初はすれ違う若い女性の裸を見て目のやり場に困っていたが、人間、あっという間に慣れてしまうもので、コンビニに着くころにはすっかり普通の風景となっていた。家の中では裸族という女性が居るらしいが、旦那さんはこんな気持ちなのだろうか。


 内臓や骨格が見えるということは、CTやMRIを使わなくても患部が分かるということで、俺はスーパードクターになれるのではないかとも思ったが、あいにく医学の知識は全くなく、そもそも医者になれそうな学力もなく、そんなことは妄想に過ぎなかった。


 透視できる対象は人間だけではなく物にも及んでおり、俺は透視しながら、できるだけ具の多いおにぎりを選んだ。


 そうこうするうちに夕方となった。俺は、近くの駅で芽依ちゃんと待ち合わせをしていた。相変わらず俺には、駅に出入りする老若男女全ての下着や裸や内臓や、自動販売機の中のメカ、行きかう車のエンジンなども同時に見えていたが、人間、莫大な情報量をすべて処理できるわけはなく、俺には通常と変わらない風景のみが入ってきて、その他の情報はなんとなくスルーするようになっていた。


 そして芽衣ちゃんが現れた。当然ながら俺は芽衣ちゃんを集中して見ることになった。すっきりした薄いブルーのワンピースが、ふわっとしたミディアムロングの髪に似合っている。そして、下着は・・・、上下お揃いのパープルのレースのついた奴だ。もちろん裸も見えている、おまけに内臓や骨格も・・・。

 「ん?」

 俺は口には出さないが多少の違和感を覚えた。下着が派手すぎないか?女性の下着のことはよく分からないが、通常は上下揃えるものなのだろうか。芽衣ちゃんはものすごく几帳面なのだろうか・・・。そもそも高そうな下着だし・・・。いわゆる勝負下着のたぐいではないのだろうか。

 「待ったぁ?」

 芽衣ちゃんが明るく話しかけてきた。

 「いやいや、こっちも今来たところ・・・。今日はパエリアのおいしい店を予約しているから、少しぶらぶらしてから行こうか。」

 「そうだね。」

 俺は、口の中も、胃の中も、大腸の中もすべて透視できることを考えると、一緒に食事するのはどうかとは思ったが、並んで座るか、テーブルの角に座るかして、内臓は視界に入らないようにしようなどと考えていた。


 「ブブブブブ」

 歩き出して間もなく、芽衣ちゃんのスマホのバイブが鳴った。

 「あ、ちょっと出るね。」

 芽衣ちゃんは俺には見えないように少し離れてスマホをいじりだした。しかし、俺は透視能力で画面が見えていた。


 スマホには「翔太先輩  今日も泊まりに行っていいかな」と表示されていた。芽衣ちゃんは「今日は友達と食事だから、後で連絡するね」と返信している。


 翔太先輩とはサークルの先輩だ。「今日も」って、芽衣ちゃんは先輩とできているのか。芽衣ちゃんの勝負下着は先輩とのお泊りに備えたものだったのだろうか。それとも先輩から俺に乗り換え、深い関係になることを想定してのことだったのだろうか。


 透視能力をもってしても芽衣ちゃんの心の中を見ることはできなかった。


おしまい

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