第14話 サンゴの決意と呪われた血筋
その瞬間、チック・パピーは上ずった笑い声をあげながら喜びの声を上げた。
「愚かな小童め、この小娘程度にわしが負ける訳が無かろうっ」
言葉通り、サンゴの体は瞬く間に魂の糸によって絡めとられていっているのだが、それは体の半分までしか到達できていなかった。
「負けない、こんなところで負けるわけにはいかない・・・・・・」
サンゴは俺が思っているよりもはるかに強い精神力でチックパピーの浸食を食い止めていた。その様子にチックパピーが再びサンゴの名前を呼んできた。
「抗うなサンゴ、そんな苦しい思いをしてまで何を望む?」
「私は、力が欲しい」
「力か、ならばすぐにでもその体を引き渡せ、わしの力をお前に分けてやるぞ?」
「・・・・・・嘘をつくなっ」
ただ喋っているだけのはずなのに、まるで含み笑いをしているかのような喋り方に対してサンゴはものすごい怒声を上げた。
それは、思わず俺も驚いてしまうほどのものであり、サンゴは息を荒げながら言葉を続けた。
「私にはわかる、お前が嘘をついているのがわかるっ」
「嘘ではないぞサンゴ、わしを信じておくれ?」
「信じない」
「なぜじゃ?」
「私はこれまで幾度となく嘘をつかれてきた。だから、私の体には嘘の波動が染みついている。そして、お前の言葉からはその波動がひしひしと伝わってくる。だから私はお前を信じないっ」
「・・・・・・ふむ、ただの小娘と思っていたが、存外苦労はしていたか、ならば乱暴しようかの?」
チック・パピーの妙に落ち着いた声に俺は寒気を催した。
「おい、なにをするつもりだ」
「そりゃあ、わしとっておきの呪文でこの面倒を終わらせるつもりじゃ、なに、あっと言う間に終わる」
「ちっ、案外しぶといなこいつ」
「待ってくださいジュジュ君」
サンゴは俺を呼び止めると、どこか自信に満ちた表情を見せており、そこにはわずかに笑みが混じっていた。
「おいサンゴ、でもこいつは本気だ、それにお前の体も持たない」
「大丈夫ですよ、私の特性、伝えましたよね?」
「特性?」
確か、混沌の舌とかいう詠唱が複雑になる性質を持っていたとは聞いていたが・・・・・・もしや、それが今役に立つという事か?
「私に任せてください、残された時間で必ずこの力、手に入れて見せます」
サンゴはそういうと、不敵な笑みを見せると、チック・パピーに話しかけ始めた。
「悪いけど、この体は私のものだから渡せない」
「小娘が粋がりおって、わしの詠唱がどれほどのものか目にもの見せてやるわ」
そういうと、チックパピーは呪文を唱え始めようとしたのだが、奴はまるでろれつが回らないかのように奇妙な言葉を発し始めた。
「れは、ぴーちく、ぱーちく・・・・・・むっ、なんじゃこれはっ!?呪文がうまく唱えられんっ」
「あははははっ、残念でしたぁ、私の体はそう簡単に呪文を唱えることはできないのよっ」
サンゴはこんな状況において、随分と楽しそうに笑い始めると、二重人格で割るかの様子を見せ始めた。
「なんじゃと」
「焦りと動揺の波動が入り混じった、実に情けない声ねぇ」
「こ、小娘が、一体どんな手を」
「手なんか無いわよ、この呪われた血がそうさせるのよ、私がこの血でどれほど苦労してきたかっ、そのうっ憤を晴らせるチャンスがようやく巡って来たの、だからおとなしく私のものになりなさいっ」
サンゴに強い言葉に体をむしばむ他も魂の糸は徐々にサンゴの体から離れていった。
チック・パピーは、悔しそうな声を上げながら抵抗を試みているようだが、サンゴの半身を覆っていたはずの魂の糸は左腕までにとどまっていた。
そして、サンゴは最後の力を振り絞るかのように俺が渡したモイストポプリの匂いを思い切り嗅いでみせると、魂の糸は完全に左手に収束され、サンゴの左手は元の美しい手に戻って見せた。
「はぁはぁ、やった?」
サンゴはかなり疲弊した様子を見せながら、勝利の確信をしようとしていたその時、左手が喋り始めた。
「小娘が、いい気になるなよぉ・・・・・・」
だが、チック・パピーはその言葉を最後に一切喋らなくなり、俺の目から見ても澄んだ藍色の魂はサンゴの左手と綺麗に魂結されているのがわかった。
「ま、まだ私のものになってないの?」
「いや、大丈夫だサンゴ、魂の融合は成功している。もう、あいつが出てくることはない、紛れもなくお前の勝利であり、その手の口はお前のものだ」
俺がそういうと、サンゴは安心した様子で微笑むと、その瞬間全身の力が抜けるかのようにその場に倒れそうになった。
すかさず、彼女の体を抱きかかえると、彼女は俺の腕の中で静かに寝息を立てていた。
仕方がない、あれだけ強力な魂を抑え込んだんだ、まともに立っていられるわけがないか・・・・・・・
それにしても、まさかサンゴがこれほどまでに強い精神力を持っていたとは思わなかった。そして、それを支えたのがサンゴの強い意志と力への渇望だ。
なんにせよ、俺にとっても初めての人間への魂の融合が成功して何よりだ。
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