最強戦士の私。仲間たちと反乱を止めるために旅立ちました。聖女様が溺愛してきて、みんなに内緒で手をつないでいます

わらわら

第1章 仲間たち

魔槍継承編

1話  手紙

 昼休み、寮の自室に戻った僕は机の前に積まれた手紙の束を眺めていた。

 数か月前、武術大会で優勝してからたくさん手紙が来るようになった。

 

 男の人からも、女の人からも。僕は人気者になってしまった。

 

 手紙の内容はファンになりましたとか、応援していますとか好意的なものが多い。

 けど、「会いませんか」、「交際してください」みたいないやらしい手紙や、「生意気」とか「死ね」とか「お前は優勝にふさわしくない」みたいな誹謗中傷も混じっている。

 

 なんで大会に優勝しただけで死ねとまで言われないといけないの。

 

 悪いことをしたわけじゃない。けど、僕は目立ち過ぎてしまったらしい。

 みんなの注目を集めたせいで、知らないうちに顔も知らない味方や敵が増えていた。


(顔も知らないみんなが僕のことを知っている。なんか憂鬱だな。みんな僕のこと知らないくせに) 

 

 まあいいや。今は顔を知らない人たちのことはあんまり考えたくない。


 兄さんから手紙が届いてるはずなんだ。

 

 机の上の手紙の束を掻き分けて、目当ての手紙を探す。

 手紙を指でつまんで、封筒に書いてある差出人の名前をみていく。

 

(あ。また「ミア」から手紙が届いてる)

 

 このミアって女の子の手紙は毎日届く。1日に2~3通届く。内容はとても好意的で、心から応援してくれるのが伝わってくる。読むたびにうれしい気持ちになる。けど好意的な手紙でも、毎日欠かさず届くとだんだん怖くなってきた。

 僕のことが大好きなミアってどんな子なの。もしかして知っている子かも。

 気になって、一度ミアの住所を見に行ったことがある。けど、その住所には空き家があるだけで誰も住んでいなかった。ミアは本当に実在しているのか……そう思うと毎日届く手紙がさらに怖くなった。

 僕は手に取ったミアの手紙を慌てて引き出しの中にしまった。


「ふう」

  

 息を吐いて心を落ち着ける。そうしてから兄さんの手紙の捜索を再開した。2、3枚めくって、ようやく兄さんの名前が見つかった。

 

(あった! 兄さんからの手紙)


 封筒の端をナイフで切って、折りたたまれた便せんを取り出す。戦地に向かった兄さんの顔を思い浮かべながら、僕は便せんを広げた。手紙はいつも通り兄さんらしいゴツゴツした字で綴られている。



 

『親愛なるツキへ

 

 風のうわさでお前が武術大会に優勝したと聞いた。

 馬車で2か月も離れた戦地にもうわさは届く。

 うわさってやつは風のように速いんだ。

 頑張っているな、ツキ。

 きょうだい3人が優勝するのも、女が優勝するのも大会史上初の快挙だ。

 兄として鼻が高いよ。槍の名門ランセリア家ここにありだ。本当によくやった。

 

 さて俺はいよいよダルトン領に入った。いよいよ戦場に出るんだ。

 俺はきっと槍の名門ランセリア家の力を示して、ダルトン卿の反乱を鎮圧してみせる。 

 なに心配はいらない。俺には魔槍ゲイボルグがある。

 なにより俺たちには聖女様の加護がついている。

 

 俺たちの聖女様はすごい人だ。

 指揮官として稀代の才能を持っている。

 彼女の軍略があれば反乱鎮圧は問題ないだろう。

 その上、美人で優しい。キールって聖女様は本当に最高なんだ。

 

 俺はキール様と旅をするうち、すっかり彼女のことが好きになってしまった。

 聖女としてではなく、ひとりの女性として。

 それをキールに伝えたら、なんと彼女も俺のことを好きだったんだと。

 振られるものだと思っていたからびっくりだ。

 まさか戦地で恋人ができるなんてな。

 ダルトンの反乱を鎮圧して帰ったら、俺たち結婚しようかと話している。

 聖女様と結婚するなんて親父は反対するかな? ツキは祝福してくれるだろ?

 

 なんにせよ反乱を止めないとな。

 次に手紙を書くときは、ダルトンとの決着がついてからになるかな。

 なに心配いらない。ダルトンには聖女様はいないからな。

 またな。頑張るツキに天使様の加護がありますように。


 ガスト・ランセリアより』


 

 手紙を読み終えた僕は暖かい気持ちに包まれていた。頑張って優勝した甲斐があった。それにしても兄さんが聖女様と結婚か。

 兄さんを送り出すときに見た、あの長い黒髪の聖女様……キール様はとてもきれいな女性だった。

 あんなきれいな人が義姉さんになるんだ……楽しみだな。

 がんばれ兄さん。僕も頑張るから。だからきっと無事で帰ってきてね……。

 

 と、そのときドアが激しくノックされた。その音の強さが不吉な出来事が起きたと伝えている。

 戸惑いながら「どうぞ」と返事をすると、先生が青冷めた顔で飛び込んできた。丸眼鏡を押さえる手が小刻みに震えている。


「つ、ツキ君、急いで家に帰りたまえ! ガストさんが亡くなられた」

「兄さんが!?」


 そんなの嘘だ! と出かかった声を飲み込む。額から冷たい汗がにじんで、体温がじわじわと引いていくのがわかった。





***




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